「いい子にしてね、白嘉茂巡ちゃん」

「……!」


耳元で私の名前を言ったしゃがれ声に、背筋が凍った。

……私、この人知ってる。


体がグッと硬くなって、冷や汗が大量に吹き出る。


「…あ、もしかして気付いた?そうそうこれ、誘拐。会うのは二回目だね、巡ちゃん」


全身に鳥肌がブワッと立ちあがった。


10年前。私は、誘拐された。

男の人が苦手になったのは、10年前に誘拐犯の男に体を触られそうになったからだった。

その男の顔を、私は知らない。

でも鮮明に覚えている、独特の口臭としゃがれ声。

今、その男が、


「さらに美人になったね、巡ちゃん」


10年前と同じようにガムテープで私の手首を固定して車にのせ、バタン!とドアを閉めた。