(今日は……)

掬った湯が,真理の手のひらからこぼれていく。

(いつもと同じようで,全く違った)

(どの時間にもお母さんがいなくて,凪とずっとふたりきりだった)

ぱしゃっと顔につける真理。

(このあとも,凪がいる)

右手で顔を拭う。

(今日はずっと,ふたりきり)

真理の頬に,もぞもぞと力が入る。

鼻まで湯船に浸ける真理。

(何なんだろう,これ)

少しだけ鼻からでた空気で,水面がぽこぽことおとをたてる。

(凪はいつも他の人とは違うけど,小さい頃はここまでじゃなかった)

(それくらい,分かる)

きゅっと目を瞑る真理。

(いつからだった? もう,なんなの……?)

ぽおっと顔が上気して,口を結ぶ。

(知りたい。知りたくない)

天秤が,ぐらぐら。

(頭が,ぐるぐる……あ,長湯しすぎた……)

考えることを放棄し,浴室を出る。

くらくらとする頭を片手で押さえる真理。

顔を歪めてバスタオルを手に取る。

(知りたくないなんて言ってる時点で,もう気付いてるんじゃないの?)

お腹の深くで,声がする。

そう囁くのは,天使か,悪魔か。

(……ううん。どっちだとしても,それはきっと自分だ)

着替えを終え,脱衣所を出る真理。