「ありがと」



少し不満げな真理。

(また子供扱い……)

黙って口の端を滑る親指を受け入れる。 

(違うなら,やっぱりおかしい)

長い睫が見える距離に,真理は目を伏せる。



「真理,見えないからこっち向いて」


仕上げにぐっと凪の親指に力が入る。

(近い)

目元を赤らめ,また伏せる真理。

(凪は簡単に私に触れるけど……もしかして,他でもそうなの?)

胸の辺りがチクリと痛みを感じる。

(? 服かな)

着心地の悪い服でも着ていたかと思い出し,確認する真理。

そんなことはない普通の服。

(なんだったの?) 

その柔らかい感触から顔を背ける真理。

凪は身体を起こして自分の席に引いていく。

机に揺らめく,凪の影。

驚いた真理が急いで凪の手を掴む。

ガタッと椅子が大きく音。

真理は目を見開いて凪に言う。



「凪っ! ティッシュ,あるから!」



慌てふためき,ティッシュに手を伸ばす真理。

少しちぎれたティッシュ。

(もうっ)

迷いながら,それを凪に押し付ける。

(凪は以外と大雑把)

真理に付いていたソースを,口にしようとしていた凪。

肩で息をする真理は,それを

(忘れないでおこう)

心に決める。

(人の皮膚に触れたものを口にいれようとするなんて,ほんとどうかしている)

凪は今にも指から舐めとろうとしていた舌を引っ込め,不格好なティッシュを素直に受け取る。

ほっと息を吐く真理。

何故か昔見た太鼓のようにドコドコと大きな音をたてる心臓を,ぎゅっと押さえる。