(ほんとは,少し……恥ずかしかっただけ)

真理はパタパタと両足を動かす。

(凪が私以外いないこの家で,泊まると知って)

(……なんてね。冗談だよ,今のは。全部気のせいなんだから)

凪がふと台所へ行く。

時計を見る真理。

(もう,くじ)

とろんと瞼を落とし,眠る真理。

⚪真理の家·リビング(昼)

目覚める真理。

凪は台所で何かを茹でている。

トイレに行き,顔を洗い,髪を整える。

自分を見下ろす真理。

(まだ,パジャマなんだった)

そっと2階へあがる。

白シャツに短パン,シンプルな装いに着替え,戻る真理。

食欲のそそる匂いに,顔をあげる。



「なにつくったの?」

「スパゲッティ。寝起きでも食べられるんじゃないかな」

「とまと?」

「そう」



(おいしそう)

匂いにつられた私をみて,凪が一言。



「作りながら考えてたんだけど……」



一拍置かれたその間に意識を戻し,顔をあげる真理。



「お嫁さんって良い響きだよね」



機嫌の良さそうな声に,満面の笑み。

唇に力を込めた真理は,そのまま黙って背を向ける。

さっと歩き,ご飯を食べる机を前に,椅子に座る真理。

くすりと笑い,綺麗に盛り付けられた皿を凪が配膳する。



「美味しそう…」



思わず語尾のあがる真理。



「そう?」



ポツリとした呟きに,嬉しそうに微笑む凪。

素早く手をあわせて,真理はフォークでくるくる。



「凪の手料理なんて,はじめて食べた」

「そうだった?」

「うん」



そんな他愛ない話をして,時間だけが過ぎていく。

(ほんとに,私は何に躊躇していたんだろう)

フォークを持ったままボーッとする真理。



「手,止まってるよ。もうお腹一杯?」



凪はそれを指摘して,首をかしげる。

ハッとする真理は嫌な顔せず微笑んでいる凪にほっとする。



「食べないなら…食べちゃうよ?」




意地悪く笑う凪の綺麗な顔に,見惚れる真理。

遅れて反応する。



「えっやだ!」



咄嗟に,声をあげる真理。

(あとちょっとなのに……)

お皿の上に,少量のスパゲッティ。

思いの外気に入っている真理の顔を見た凪は嬉しそうに笑う。



「でもちょっと待って」



真理に手を伸ばす。



「赤いの,ついてる」



と,腰を浮かせる。