(私に友達は,いない)


胸の痛みを一旦無視して,考える真理。

(つまり,数日出ていくような場所がないってこと)



「凪,なんで鍵もって来なかったの」



ジト目で凪を責める。



「朝突然頼まれたから」



(自分は悪くないと?)

凪の返答に頭を抱える。



「友達の家は?」

「仲いいとはいえ突然行けないよ」



凪の答えに呆然とする真理。

(人気者の凪が,青春で少し距離感おかしくなっててもおかしくない高校生男子が。
そんなに謙虚でいいの?)

(普通の高校生男子も知らないけど……)

凪の顔から目線を外す。

(誰か,だれか……)

やっきになって考える真理。

(あ)

ぱっと顔をあげ,空中を見る。

(珍しいけど確か……いた,はず)



「一人暮らししてる女の人の先輩なら…」

「真理」



ビクッと肩を揺らす真理。

(今……私と凪,どっちが早かった?)

言葉を止めたのが先か,凪が口を開いたのが先か,言いたくなかったのか,止められたのか。

些細なことが気になる真理。

そしてしゅんと小さくなる。

真理が凪をチラリと見上げる。

(だって,分かるから)

(凪,今,怒ってる)