まだ残暑が厳しい9月、金曜日の夕方。

学校から帰って来たオレは、1週間の疲れも忘れて、夕食のカレーを黙々と混ぜていた。

料理上手な訳ではないが、簡単なものくらいは作ることができる。

良い匂いだ。

両親に頼み込み、通っている高校の近くにあるアパートで、1人暮らしをさせてもらっている。

というのも、2年前に父親の海外転勤が決まった。

当然、家族全員で引っ越すという話になったがオレは反対した。

オレだけが日本から離れたくはなかった。

両親には最低限の家事ができる事を証明し、勉強を疎かにしないと約束したことで、納得をしてもらった。

自国に対して思い入れがある訳ではないが、単純に海外で暮らすことが怖かった。

ピーンポーン。

ドアのベルが鳴った。

『はいよー。』

カレーを混ぜる為に使っていたシリコン製のお玉を片手に、ドアの鍵を開けに言った。

『お邪魔します。』

彼女のシオリが家にやって来た。

付き合い始めて半年ほど経つ。

今日はウチに泊まっていく予定だ。

1人暮らしの最大のメリットは、彼女を連れ込み放題って所じゃないか?

『はい、ジン。これは差し入れ。あ、今日はカレーなんだ。』

『何となく食べたくて。』

『分かる。理由もなく無性に食べたくなるよね。』

オレの部屋は玄関から入ってすぐ、右側の辺りにキッチンがある。

なので、部屋に入るとすぐにカレーの匂いを味わうことができる。

シオリは少しの間キッチンの辺りに滞在して、カレーの匂いを楽しんでいた。

『準備するからちょっと待ってて。』

差し入れを受け取った後、シオリを居間(って呼べるほど広くない。メインの部屋ってこと。ちなみに和室。)に通した。

既にカレーは出来上がっていたので、数分で用意ができた。

小さな白いローテーブルに、水が入ったコップとカレーとスプーンを持っていった。

シオリはローテーブルの前で足を伸ばして座り、リラックスした状態で待っていた。

『大したもんじゃないけど。』 

『美味しそう。いただきまーす。』

シオリはカレーの入った皿にスプーンを入れた。

『はいよ。』

オレも食べよう。

お腹が空いた。