美代には、お母さんがいません。美代が生まれてすぐに離ればなれになりました。お父さんは、お仕事で遠い国にいます。だから、美代はおばあちゃんと二人きりです。
冬の朝。おばあちゃんと手をつなぎながら歩く、赤いコートの美代が歌っています。
「ゆきやこんこ~ありゃれやこんこ~ふってもふっても~……」
「まだ降りやまぬ」
「まだふりやまにゅ~ネコはこたちゅでまるくなりゅ~」
「あれ? 犬はどうしたんじゃ?」
「んとね、……おしょとでかけっこしてりゅの」
「そうじゃ。犬は喜び庭駆け回り~」
「ネコはこたちゅでまりゅくなりゅ~」
「じょうず、じょうず。美代は歌がじょうずじゃ」
「あのね、おばあちゃんがおしえてくれたでしょ? だから、ミヨじょうじゅなの」
「そうか? 美代は優しい子じゃ。ありがとのぉ。美代、おばあちゃんとの約束は、なんじゃったかな?」
「んとね、しりゃないひとについていかないこと」
「そうじゃ、約束だぞ。後でまた迎えに来るからね」
「うん。バイバイ」
「バイバイ。園長先生の言うことをちゃんと聞くんじゃぞ」
「ハ~イ」
そんなある日。
いつもの時間になってもおばあちゃんは迎えに来ません。
外は木枯らしが吹いています。
園長先生が、寒いから中で待つように言っても美代は言うことを聞きません。
いつものようにブランコに揺られながら、おばあちゃんを待つのでした。
「ゆきやこんこ~ありゃれやこんこ~ふってもふっても~……」
遠い山のてっぺんにいる黄色い夕日が、今にも向こう側に隠れてしまいそうです。
「……おばあちゃん」
美代の潤んだ瞳が、夕日色にきらめいていました。
その時です。
「……美代ちゃん?」
女の人が声をかけました。
「うん。……オバチャンりゃれ?」
「美代ちゃんのおばあちゃんの知り合いよ。あのね、おばあちゃん、急な用事で迎えに来られないの。だから、オバチャンが美代ちゃんを迎えに来たの。さあ、一緒に帰ろう」
女の人が手を差し出すと、美代は急いで両手を後ろに隠し、
「しりゃないひとについていかないって、おばあちゃんとやくしょくしたもん」
そう言って、女の人をキッと睨みました。
「……そっか。おばあちゃんとの約束じゃ、仕方ないね」
女の人は諦めると、
「……さよなら」
そう言って、手を振りました。
「さよなりゃ……」
夜になって、雪が降り始めました。
慌てて戻って来た女の人は、園長先生の傍でスヤスヤ眠ってる美代を抱き抱えると、雪の中を急ぎました。
家の中には、キラキラと輝くクリスマスツリーが飾ってありました。
女の人は、クリスマスツリーの傍に敷いた布団に美代を寝かせました。
美代の傍には、白い布を覆ったおばあちゃんが布団に横たわっています。
「母さん、美代がやっと帰って来ましたよ」
女の人はそう呟いて、溢れる涙を静かに拭いました。
その時です。おばあちゃんの手がゆっくりと動いて、スヤスヤ眠る美代の手を握りました。
「ハッ……か、母さん」
女の人が目を丸くしていると、突然、クリスマスツリーの電飾がピカッピカッと明るく光りました。
それはまるで、美代に注ぐ、おばあちゃんの愛の光のようでした……