「……っ…。」



十葵が、襖を開けた途端。
一斉に中にいた人間の両目がわたしを貫く。
その眼光の鋭さと向けられた殺意に近いものに、思わず後退りしそうになる。

大広間の大きさと、中にいた人間の数。
わたしが予想していたよりも遥かに多くて、身体が強張るが分かった。
背中に変な汗まで伝う。



「…やあやあ、一条の若。
お久しゅうございます。」


「藤の君、先日はお世話になりました。
うちの愚弟が、ご迷惑をお掛けしたようで…。」



そんなわたしを他所に。
藤雅は、わたしから手を離すことなく周りの人達と言葉を交わしながら上座の方へ向かう。

上座には、藤仁さんと千歳さんがいて。
千歳さんはにこにこしながら、わたしに手を振ってくれいた。


今のわたしには、手を振り返す余裕なんて無くて。
死にそうな気持ちでいっぱい。
小さく会釈だけ返しておいた。



「…それにしても。
お隣の方が、かの有名な藤の姫ですか。」


「いやあ、噂には聞いていたがお綺麗な方だ。」



突然、藤雅と話していた男性たちの視線がわたしに向けられた。

凛としていよう、と。
真っ直ぐに前だけを見つめていたわたしと、いきなり目が合うものだからびっくりして藤雅の袖を握ってしまう。