今日は、沢山の女の人が来てるから。
藤雅はわたしのものって、何かしらの印を残しておきたかった。


本当は、近づいて欲しくない。
わたしの藤雅なの。取らないで。

そう思うけれど、そんなこと言えないし。
せめて、行動で牽制しておきたい。



「行くか。」


「……うん。」


「そんなに緊張しなくていい。
お前は俺の隣で、俺だけ見てろ。」


「……ありがと。」



すっと慣れた手つきで藤雅の手が腰に回る。

いつもの事なのに、緊張からか妙にドキドキして歩き方すら分からなくなっちゃうよ…。


そんなわたしとは裏腹に。
藤雅は、堂々と大広間へ向けて歩みを進める。
大広間が近くなればなるほど、一条の人達だけじゃなく他の組の人達ともすれ違った。



「若、若姐さん。
お待ちしておりました。」


「…ああ。」



いつもより神妙な面持ちの十葵が、襖の前で待機していた。
蒼樹はいつもと変わらない表情に見えるけど、やっぱり気持ち的に引き締めてるみたい。

にこにこしてる十葵が、こんな顔してるなんて…。
やっぱり、これは相当きついところなのかもしれない…。

ああ、どうしよう。
逃げ出したい衝動に駆られる。



「大丈夫だ。」


「……うん。」



口から出た返事は頼りなくて。
今にも死にそうな声だったかもしれない。

だけど、もう逃げないって決めたから。
わたしだって腹を括らなければ。