俺は言われるがままにグローブに向けて投げた。
「やっぱ陽介の球は違うんだよな。どんなへなちょこな球でも、他のやつとは全然ちげーんだよ。なんかこう、ズバッと来るっていうか重たい感じ?」
「何だよそれ」
「高校入って最初にお前の球を受けた時、こいつフツーじゃねーなって思った。野球にかけてきたことも野球への思いも、誰よりも強いんだってわかった」
鮫島はもう一度グローブを構えた。だから俺は、もう一度そのグローブ目がけて投げた。俺のへなちょこな球をぱしっと取った鮫島は微笑んだ。
「けがくらいじゃ諦めつかねーよな」
「…だな」
「ま、陽介ならぜってぇすぐにプロまで登り詰めてるよ。気づいたら俺越してアメリカにでも行ってるかもな」
鮫島はニカッと笑った。
「陽介なら絶対大丈夫だ」
「ありがとうな」
鮫島はネットの周りに転がるボールを拾ってかごに戻すと、グローブを丁寧にしまい、リュックサックを背負った。
「じゃあ、俺もう帰るわ。明日は朝早いし」
「明日出発?」
「あぁ、四万十に行ってくる」
鮫島はガッツポーズをした。
「頑張れよ、一軍での活躍、期待してるからな」
「おいおい、プレッシャーかけんなって。俺がプレッシャーに弱いこと、知ってんだろ?」
「そうだった、ごめんごめん。鮫島らしく頑張れよ」
「おう、陽介も頑張れよ。四万十で待ってるからな」
「すぐそっちに行ってやるよ」
「じゃあな」
「じゃあ、またな」
暗くなったグラウンドに溶けていく鮫島の背中は、今日も立派だった。