「ピッチャーは伝説の剛腕、佐竹。対するバッターは2番キャッチャー鮫島!!」
鮫島は突然、野球の実況のように喋り出した。だから俺は、まるでマウンドに立っているかのような振る舞いで、ネットに向かってボールを投げた。すると、鮫島は全力で空振ってよろよろとよろけた。
「おっと~! 鮫島選手、佐竹選手渾身のストレートを空振った!!」
鮫島の実況に面白くなった俺は、また手にボールを持った。
「ノーボールワンストライク、さぁ2投目!」
俺はボールを投げた。すると鮫島は、打つふりをして見送った。
「鮫島選手、出かけたバットを何とか止めました~ワンボールワンストライク、続く3投目!」
俺の手から離れたボールは、まだ行く先が定まらず、ゆっくりと鮫島の足に当たった。
「膝に当たった! これはデッドボールか? いや、審判は避けていないと判断。ボール判定になりました。ツーボールワンストライク!」
俺はどんどん面白くなって、ランナーを気にする素振りや、キャッチャーのサインを見る素振りを見せた。ノリノリでボールを投げたが、ボールはネットの手前でバウンドしてしまった。
「投球逸れましたが、キャッチャーよく止めましたね〜しかしこれでカウントは、スリーボールワンストライク。ピッチャーにとっては苦しいカウントです」
俺は鮫島の実況に合わせて、汗を拭ったり、肩を上下させて息を荒げていりような演技をした。そして俺はボールを投げた。ど真ん中にいったのに、鮫島はボールを見送った。
「鮫島選手、フォアボールを狙ったか! しかし判定はストライク。これでカウントはツースリーだ!」
そう言うと鮫島は、ぶんぶんと素振りをしてから打席に立った。
「この振り方はホームランを狙っていますね〜さあ運命の1投!」
俺は今出来る全力でボールを投げた。しかし、力任せに投げると、コントロールが定まらずボールは明後日の方向に飛んでいった。それなのに鮫島は、また全力で空振った。
「鮫島選手、ボール球を空振ってしまった〜」
鮫島は少し悔しげな表情を浮かべて、バットをしまった。
「いや、なんで振るんだよ」
俺は悔しそうにはにかむ鮫島に思わずツッコミを入れた。すると鮫島は、今度はグローブを持ってネットの前に立った。
「このグローブめがけて投げてみろ」