次の日。俺は早速病院へ行った。担当医に俺の夢を語るためだ。 
「先生、俺、もう一度マウンドに立ちます」 
医者は当然、目も口もぽかんと開いていた。
「佐竹くん、君の気持ちはわかるけど、君は事故の前にも、右手首を怪我していたんだ。何度も骨折をしていると、どんどん関節が悪くなって、痛みが残ったり自由に動かせなくなるかもしれない」
「先生、俺やっぱ理屈じゃ語れないってことがあると思うんですよ。限りなく無理に近いことだとしても、医学的な論理で無理なことが証明されたとしても、俺は努力でそれを覆してやりますよ」
医者は、はぁっと溜息をついた。
「佐竹くん、上手くいく保証は出来ないよ」
「ありがとうございます、先生」
俺はこの日から、『不自由なく生活を送るため』のリハビリから、『もう一度マウンドに立つため』のリハビリに切り替えた。

「くっそ全然動かない」
最初は全然思うように動かなかった。箸が持てるだけでは、当然ボールは投げられない。上腕の筋肉も、手首も、指先も、全然力が入らない。ボールを投げようと腕を振り下ろしても、ボールはただ指から滑り落ち、垂直落下をするだけだった。
それでも俺は諦めなかった。5ヶ月半ぶりに学校のグラウンドに出向いて、ネットに向けてボールを投げ続けた。最初は、ネットに届きもしなかったけれど、日を追うごとに、少しずつ、少しずつ真っ直ぐにボールが投げられるようになってきた。

「あれ? 陽介? え、めっちゃ久々じゃん」
ある日、グラウンドで練習していると、そこに鮫島がやってきた。うちの学校は甲子園には行けなかったけど、強豪校ということもあり、スカウトの目に留まった鮫島は来春から四万十サニーズに入団することになっていた。
「おう、鮫島、どうしたんだよ、グラウンドなんか来て」
「入団する前にもっと自分を鍛え上げるんだよ。っつーか、陽介こそ何してるんだよ。腕、もう野球出来ないって言われたんじゃないの?」
「うーん、何だかすげー野球したくなったんだよね。それで医者と相談しつつリハビリしてるってわけ」
「ほぇーじゃあまた陽介のピッチャー姿を見られるってわけだ」
「ま、いつになるかわかんねーけどな」
俺がボールを1球投げると、鮫島はバットを持ってネットの横に立った。