「もう…大丈夫です…」
そう言ったのは、俺の隣で泣きじゃくる叶汰だった。
「あいつ、死ぬ時は穏やかに死にたいって言ってたから…もう…大丈夫です」
医者が手を止めると、機械が表す心拍数は"0"を示していた。機械の電源が切られると、病室には静けさだけが残った。彼女の瞳孔が反応しないことが確認されると、いよいよ彼女の死が証明されてしまった。


しばらくして、事が落ち着いてくると俺らは病室の片付けを始めた。彼女がいないだけで、この病室がただの病室になってしまう。彼女のベッドにはまだほんのり温かさが残っているような気がして、急に寂しさを実感する。
「叶汰…お前、すごいな」
「何が?」
「心臓マッサージ、もう大丈夫だ、なんて言えて。俺だったらずっとマッサージし続けるかもな」
「最後の願いくらい叶えてやりたかった。ずっと我慢ばかりの生活だったから。それに…」
叶汰の目から涙がこぼれた。
「真結はきっと、もう十分幸せに生きたから…」
泣き崩れる叶汰の肩を抱くと、俺の感情も一気に溢れてきた。俺らには、真結さんが幸せだったことを信じることしか出来なかった。それが唯一の救いだから。
日が暮れて薄暗くなった病室に響いたのは、俺らの泣き声だけだった。