中庭に着くと、中庭には温かな声が広がっていた。元気にはしゃぐ子供たちから、ベンチに座って日向ぼっこをするお年寄りの方までみんなが穏やかに過ごしていた。
中庭の真ん中に立つ大きな木には、クリスマスの飾りがついていた。クリスマスイブの夜にはこのツリーがライトアップされるらしい。
「中庭の雰囲気、私すごい好きなんです」
彼女は和やかに微笑んだ。
「優しい雰囲気ですね」
首を通り抜ける冬の風は、ほんのり温かみがあった。
「私…今日は陽介さんに話さなくちゃいけないことがあるんです」
彼女のその言葉は、まるで晴天に雨雲を呼んでいるかのようで嫌な感じがした。
「何か…ありましたか…？」
俺は息を飲んだ。彼女の口から一体どんな言葉が出てくるのか、俺には予想も出来なかった。
「陽介さん、ずっと私の彼氏でいてくれてありがとうございました」
「あ、こちらこそ…」
「もう、私の彼氏でいなくていいです」
「え…？」
「案外わかるんです。自分が死ぬ時って。あ〜もうすぐ死ぬんだな〜って」
彼女は切なく笑った。
「だけど、死ぬまで彼氏でいてって、俺にそう言ったじゃないですか」
「陽介さん、ごめんなさい。実は私、ずっと嘘ついていたんです」