「陽介さん、耳真っ赤」
わかりやすく動揺した俺に彼女は大きく笑った。俺の耳はカッと熱くなった。
「どうしよ、笑いすぎて涙出てきた」
目を擦る彼女を見ていると、ここが病院であることを忘れてしまいそうだった。そういえば、こんな元気な彼女は一体何の病気を抱えているんだろう。
「あの、話変わっちゃうんですけど、」
笑い止んだ彼女が突然口を開いた。
「ずっと気になってて、その腕」
俺は自分の右腕を見て納得する。俺は彼女のことを知らない。だけど彼女も俺のことを知らないのだ。
「えっと…交通事故で」
俺がそう言うと、さっきまで上がりっぱなしだった彼女の口角はぐんと下がった。
「交通事故…ですか…」
事故っていう言葉だけで、こんなに空気が重くなるんだな。
「大した事故じゃなかったんで別に」
俺が何とか空気を軽くしようとしても、
「でも腕、かなりの大怪我に見えるんですけど…」
と言われ、俺はこの空気の重さに飲まれるしかなかった。
「ちょっと打ちどころが悪くて、全治半年って言われちゃいました」
「半年ですか…それじゃ野球は…」
俺は静かに頷いた。
「ちょうど大会前に事故に遭っちゃったので」
彼女は事の深刻さに黙り込んでしまった。
結局今日は、俺の身に起きた事故の話ばかりで、彼女のことを聞くことが出来なかった。

家に帰るとまた彼女からメールが来ていた。
[今週もゼリーまでありがとうございました!]
メッセージの下には、全力でお辞儀をする少し面白いスタンプがつけられていた。相変わらず元気だな、と少しおかしく思いながら、俺は『どういたしまして』と書かれたシンプルなスタンプを送った。