引退式が終わると、皆、後輩と写真撮影や最後のキャッチボールをしていた。
「鮫島先輩!キャッチボールお願いします!」
後輩に囲まれる鮫島を見ながら、俺は木陰に腰を下ろした。
「鮫島はホントに後輩に人気だよな~」
大場もやって来て、俺の隣に腰を下ろした。
「鮫島ってほんとすげぇー奴。」
大場は鮫島のことをじっと見ながらそう言った。
「陽介の退院式も、鮫島が言い始めたんだ。準決勝当日の朝にさ、みんな緊張してて静かーなベンチで、突然『もし負けたら、陽介の退院式しないとな』って言ってんだぜ?いや、どう考えてもおかしいだろ。負けたら、の話するなよって思った。」
俺は大場の話をそのまま想像した。
「それ、めっちゃ空気が凍り付いただろ。」
監督やコーチにめっちゃ睨まれそうだし。
「そりゃあ凍ったよ。こいつ何言ってんの?ってなってた。けど、鮫島はその後、『しばらく退院式はしてあげらんねぇーな。退院とか、いつの話だよって陽介に言わせてやろーぜ。』って言ったんだ。おかげで緊張が解けて、ベンチに活気が戻った。」
俺は、いつも見舞いに来てくれていた鮫島を思い出した。あいつだって、俺が怪我したことに動揺したはずだ。
それなのに、俺やチームに気を遣ってくれていた。あいつは本当にすごい奴だ。