記憶があるのは、ボロ雑巾みたいな状態で働かされていること。ウオーレン・シャムロックという名と、復讐の二語を胸に秘めて生きる為に働いたこと。それは、まだ十歳にも満たないときの記憶。それ以前のことがまったく思い出せない。思いだそうとしても、なんともいえない頭痛がするから思い出そうという気力が失せてしまう。

 思い出せないのは、火事とかその後にあった何かのショックで記憶がぶっ飛んでしまったのね。なぜかはわからないけれど、ウオーレン・シャムロックの名と彼がわたしからすべてを奪った敵という虚構に改竄されてしまったわけね。

 ということは、ウオーレンはわたしの敵ではない。それどころか、命の恩人だわ。

「きみやきみの兄姉の消息を調べだせたのは、ずっと後のことだ。おれたちも身の危険があったし立場が危うかったから。しかしながら、居所や無事が確認出来たのはきみだけだ、マキ。もちろん、いまでもまだ調べているが、いまのところはわからない」

 メイナードの苦し気な言い方をきいて、不覚にもウルッときてしまった。

 この人たち、どれだけお人好しなの?

 感心するというよりか、呆れ返ってしまった。