「……何も言わないから浴衣とか興味ないのかと思ってた」

「真宙の後には何も言えねぇだろ」


そうだった。

私たちが1階に戻ると真っ先に真宙くんが話しかけてきたんだった。


『お、可愛い子たちが下りてきた。新那ちゃんは白の浴衣にしたんだ。赤い牡丹の花がアクセントになってて可愛いよ。瑠佳ちゃんは紺色に紫陽花かー。大人っぽくて素敵だね。櫻子の浴衣姿はもう何度も見てきたけど、今年の桜柄の浴衣も似合ってるよ』


あれは今まで浴衣姿の女の子を多く褒めてきた男の台詞だった。



「俺だって似合ってると思ってたし、惚れ直したよ」

そう言いながら怜央が私の手を握る。

「そ、そんな大げさな」

「うちの姫は照れ屋だから、こういう言葉には弱ぇんだよな」

「……わかってるなら言わないでよ」

「もう我慢する必要なくなったんだ。瑠佳の色んな顔が見たいと思うのは当然のことだろ?」

怜央が立ち上がると置いてあったコップからカランと氷の溶ける音がして、2人の唇が重なった。

「み、皆いる……から」

「でも、拒否んなかったろ」

私だってもう彼女歴1か月半だ。

キスをする時の雰囲気ぐらい察しがつく。

だから、わかる。今、もう一度、瞼を閉じたほうがいいことも。