汐見(しおみ)唯菜(ゆいな)が寮の個室の玄関ドアを開けると、ちょうどひとりの男子が洗面所から出てくるところだった。

「うわっ、マジで女子だ」

 その男子がぼそりとつぶやくと、咳払いして続ける。

「あっと……はじめまして。俺の相部屋の人……だよな? 俺、佐東(さとう)(れん)。よろしく」

「うん。よろしくー」

 そっけなく言うと、唯菜は靴を脱いですたすたと部屋の奥まで歩いていく。

「ねえ、あたしどっち使ったらいい?」

 ふたつのロフトを交互に見上げながら、唯菜が蓮に尋ねる。

「は? その前に自己紹介だろ。名前くらい言ったらどうなんだよ」

 唯菜の背に、蓮が若干不機嫌の混じった声をかけると、唯菜が驚いた顔で振り向いた。