「三宅さん、ご存じなんですか?」

「ーーーええ、何度かお会いしてます」

三宅の言い方はなんだか含みがあって、いやな予感しかしない。

「ちょっと事前情報など……」

「取引先の方の噂話なんて言語道断です」

ピシャリと言われたが、普段トイレで吐いている愚痴を聞いているぞ。どこぞの社長がキモイだの、暴言だらけではないか。

「何かあったらすぐに助けを呼ぶんですよ。覚えてますか? 躊躇せずに叫ぶ、逃げましょう。ああ、やっぱり護身術も教えておくべきでした。手を出してくるようなことがあったら急所を蹴り上げてください」

七生は思い詰めた様子で文に迫った。

「そんなに危険な人なんですか?!」

パーティーに行くのに護身術を習う人がどこにいるんだ。
顔、年齢、正確の基本情報は教えて貰ったが、とにかく遊び人という認識しかない。

「旭川の今日のミッションは、パーティーの経験を積むことと、大山専務の息子さんの対処法を学ぶことだな」

吾妻は笑いながら車に乗ると文の腕を引っ張った。

「あっ」

文は吾妻にぶつかるようにシートに飛び込む。

「吾妻! どういうつもりだ」

焦った七生も後に続き、文は後部座席でふたりに挟まれた。

七生が吾妻に凄む。

(こ、怖っ……)

ただでさえ心労が多いのに、どうして今日にかぎってこんなに機嫌が悪いのだろう。
仕度を終えて、顔を合わせてからずっとだ。

「なんのこと?」

吾妻は理由を知っていそうなのに、素知らぬ顔をした。

「出来が悪いのは仕事だけにしてくださいよ」

三宅が助手席に乗り、シートベルトをしながら文をふり返る。その目は呆れていた。
どういう意味だろう。

「鈍感で秘書が務まるわけないじゃない」

(鈍感? わたしが?)

なんの件で怒られているのだろう。思い当たることがありすぎた。