(こ、こわい……!)

遠くのデスクから飛んできた美人の舌打ちに驚愕する。
彼女の言いたいことはわかる。『間宮さんの手まで煩わせるんじゃないわよ』だ。

七生にも舌打ちが聞こえたのか、ぽんと肩に手を置かれた。

「わたしがフォローしますのでご安心ください」

(いえ、後ろに居られると余計に緊張して話せないんですけど)

フォローと提案はありがたいが、心強いとは思えなかった。
人前でうまく話せない人の気持ちなど、わからないのだろう。

背中を汗が伝う。
その時、七生の手が耳たぶにふわっと触れた気がした。
勢いよく振り返り見上げると七生はこちらをじっと見ていた。

「なんです?」

「い、いいえっ」

肩に置かれたままの手が気になる。
それはどかさないの?
次に指が首をかすめる。お尻のあたりがぞわっとする。わざとじゃないんだよね?

(う、動かさないでほしい……!)

そうこうしていると先方が電話に出る。

「FUYOU秘書室の旭川と申します」

名乗るのだけは、なんとか気取ってできるようになった。

「お約束している会議の件でございますが――……」

『会議の日時をお伺いしてもよろしいでしょうか』

先方の秘書にまで、やんわりと叱られた気がした。

「っあ、ええと」

しまった。日時を伝えるのを忘れた。

すぐに三宅の睨みが飛んできた。
あの怒りようは七生がこの場にいなかったら書類でデスクを叩くくらいはしていたかもしれない。

前方からは三宅に睨まれ、背後には審判役の七生が控えている。

ふたりに挟まれ、文は泣きたかった。