まさか今のやりとりを聞かれていた?
今度は何を怒られるのだろうと身構える。
辿々しくはあったが、失敗はしていないはず……。

「前アポイントからの時間が短すぎます。約束を取り直した方がいいでしょう」

「え?」

一つ前の取引先との会合は十三時には終わる。
自社で終わって、そこから出発すれば十分に間に合う距離だ。

「なんでです? ちゃんと時間を空けて……」

「十一時からぶっ通しの会議を終わらせた人間に、昼休憩も取らせないつもりですか?」

七生の呆れた指摘に、文は顔を青くした。
どれだけ分単位で働かせるつもりなのだ。

「っせ、先方に連絡します!」

涙目で受話器を上げた。
副社長の予定はもういっぱいだ。一週ずらすべき?
その手を七生が抑える。

「落ち着いてください。そこの会社とは先月少し商談で揉めているし、これ以上の変更は心象が悪いです。前の会議を三十分前倒しにしてもらって、会食を提案すべきです。少々時間が遅いが経費をこちら持ちにして誤魔化せばなんとかなります。接待に切り替えて――」

文は七生を救いの神だと思った。

(そうか、会食という体裁をとれば……)

急いで先のアポイントの調整に入る。
吐きそうなほど緊張しながら電話をかける横で、三宅が舌打ちをした。