そんな文の危なっかしい仕事様に、同僚の秘書、三宅一葉が向かいの離れたデスクから睨んでいるのが感じ取れた。

名門大学のミスコン女王の経歴を持ち、この秘書課を目指して入社した猛者である。
背が高くスタイルが良い。見た目にも気を遣っていて、服装、髪型、立ち振る舞いまで完璧な人だ。

猫系の顔でちょっと気が強く、取っつきにくい雰囲気はある。もちろんそんな雰囲気は、文とふたりきりの時にしか出さない。上席や来客には愛想は良いし、他の同僚たちともライバルでありつつも仲良く見せている。

みんな表向きは優しい同僚たちだ。
秘書課は、成績争いを繰り広げる営業課以上にライバル意識が高いらしい。
その点では、文は出来が悪く相手にもされていない。

三宅が就任するはずであった吾妻の秘書に突然文が抜擢され、三宅は全体のオブザーバーという立場になった。
三宅のあたりが厳しいのはそんな理由も含まれている気がして、文は戦々恐々だ。

(下手くそね! なにやってるのよ)

彼女の上向きで増量された睫毛がバサッと叩かれるだけで、叱咤の声が聞こえてきた。

なぜ言わんとしていることがわかるかと言うと、直接言われたことがあるからだ。

「秘書課の評判を落とすわけにはいかないの。もっと気合いを入れてちょうだい」

たった二週間で、どれほど評価を地に落としたのか。愕然としたが、反論など出来るはずもない。自分が使えないのは自覚していた。