あれ、響ちゃんの首元にあるものって、連休前には無かったはずだよね?

 朝の満員電車の中、舞は自分の隣に立っている響歌の首元に注目する。穴が空くくらい見ていたのでさすがに響歌に気づかれてしまった。

「…何よ」

「響ちゃんの首元に光り輝いているものって、何。連休前にはしていなかったよね?」

 舞の指摘に、響歌が動揺した。

 これは…絶対に何かある。

 きっと私にとって、楽しいことがあったに違いない!

「これは、連休中に何かあったでしょ。響ちゃん、隠しても無駄だからね。その首元に光り輝くものと、響ちゃんの今の態度が真実を明らかにしているんだから。バイトばかりしていたっていうのは嘘だね」

「いや、本当にバイトばかりで…」

 響歌は反論したが、しどろもどろでは効果が無い。

 舞が響歌の耳元で囁いた。

「誰とデートしていたの?」

 単刀直入だった。

 この日の舞はとても鋭かった。

 舞のこの言葉によって、響歌がもっと動揺してしまったのだ。

 こんな状態で否定されても誰も信じないだろう。それは響歌自身もわかっていた。

「橋本君だよ」

 観念して橋本の名をあげた。

 舞の顔が太陽のように輝いた。

「やっぱり。で、そのネックレスを買ってもらったんだ!」

 黙って頷いた響歌の肩を、舞が突く。

「ちょっと、何するのよ」

「いやぁ、響ちゃんもようやくここまで辿り着いたんだぁと思って。ここまで来るまでなんて長かったことか!」

 目頭を押さえて泣くフリをすると、響歌に頭を叩かれた。

「大袈裟にしないで。デートだなんて、そんなたいそれたものじゃないわよ。ただホワイトデーのお返しをしてもらう為に一緒に柏原に行っただけよ」

「それって、結局は日にちが合わなくてお流れになったんじゃなかったっけ。連休前にそんなことをボヤいていたよね」

 それなのに結局デートしたということは、どちらかがアクションを起こしたはずだ。

「私が連休中、橋本君に電話して5日に行くことになったのよ」

 予想通りの言葉が響歌の口から出た。

「なんだかんだいって、響ちゃんもちゃっかりと自分のことをしているんじゃない。橋本君に自分からデートの誘いをするんだもん」

 またもやニヤニヤしながら響歌の肩を突く舞。

「私のことはいいのよ。それよりもムッチーの方はどうだったのよ。連休中に中葉君とデートしたんでしょ。連休前はどうなることかと思っていたけど、今日の様子なら心配することは無いみたいよね。甘いデートを楽しんだの?」

 これ以上、舞にからかわれたくなかった響歌は、強引に話題を変えた。

 その瞬間、舞から笑顔が消えた。響歌の肩を突いていた手も止まっている。

 もしかして…マズイことになっているの?

「ちょっと…ムッチー?」

 響歌が恐る恐る声をかけても舞の身体は動かない。だが、かろうじて首だけは縦に振っている。

 ぎこちなく、しかも何度も!

「中葉君と上手くいっていないの?」

 響歌が優しく訊ねると、舞は頷いた。

 だが、その後、すぐに首を横に振る。

 これだとどちらなのかわからない。

 だが、上手くいっていないのだろう。舞は必死に否定しようとしているが、身体は正直だ。最初に頷いたのが正解なのだ。

「連休にデートはしたのよね?」

 今度は質問を変えてみたが、それには頷くだけで終わる。

 デートはしたらしい。

 だが、それだけしかわからなかった。

 この質問以降、響歌は舞に話しかけることができなかった。