舞の言葉に、響歌はもちろん、他の3人も驚いた。

「ムッチー、それ本当なの?」

 紗智が舞に確認する。

「もちろん本当だよ。だって中葉君から聞いたんだもの。嘘なわけがないでしょ。あの2人、1カ月で別れたんだって。なんか加藤さんの方から別れ話を切り出したみたい。やっぱり同情だけではつき合えなかったのかな。まぁ、そこまではわからないんだけどね。でも、なんにしても響ちゃんにとってはいいことでしょ?」

「そこまで具体的にわかっているのなら、その話は本当なんだろうね。それに加えてクラス替えで響ちゃんが黒崎君と一緒になると、響ちゃんにとっては益々有利な展開だ。ねぇ、どうするの、響ちゃん?」

 歩は響歌に意味深な視線を送った。

 歩以外の3人も同じような視線を響歌に送っていた。

 みんなに意味深に見られて、響歌は困り果てた。

「そうは言っても、黒崎君への想いは封印したんだし、今更…ねぇ」

「でも、恋愛感情って、自分の意志で簡単にコントロールできるものじゃないよ。本当はまだ黒崎君のことを好きなんじゃないの?」

 真子も、彼女にしては珍しく突っ込んで訊く。

 紗智も真剣な表情だ。

「そうだよ。だって最近の響ちゃん。表面では明るく振る舞っているけど、何か違うもの。私も見ていて何か我慢しているんじゃないかと思う時がある。自分の気持ちに嘘を吐いても自分が苦しくなるだけだよ」

 真剣な彼女達を目にして、響歌はたじろいだ。

 だが、覚悟を決めたのか、さっきまでの臆した感じは無くなった。海を眺めながら一歩前に進んだ。

「確かに、まだ黒崎君のことは好きだよ。封印とか凍結とか言っていたけど、やっぱりそんな感情はコントロールできない。だから私にとって封印とか凍結という言葉は、心では想っても表面には出さないし、相手にもこの想いを伝えないということなの。だって黒崎君のことはもちろん好きだけど、橋本君のことも同じくらい好きになっているから。同じくらい好きな人が2人いるうちは何も行動できないよ」

 …響ちゃん。

「橋本君にもやっぱり恋していると気づいたの?」

 歩が訊くと、響歌は素直に頷いた。

「歩ちゃんの予想通りかな。うん、やっぱりそうなんだと思う」

 そんなぁ、せっかく黒崎君が加藤さんと別れたっていうのに…

 これでようやく黒崎への恋を後押しできると意気込んでいた舞は、心底ガッカリした。

 こんな時に橋本君を好きになるなんて~!

 好きになるのなら、あの幻の告白の時に好きになっていればいいものを。響ちゃんってば、本当にバカなんだから。

 今なんて橋本君ったら、私達の方に見向きもしないじゃないの!

「ムッチーの言いたいことはわかるよ。私も自分のことを心底愚かだと思う。なんでこんな時にって、本当に思うよ。橋本君、今では私達の方に全然近づいてこないもんね」

 少し哀しそうな響歌に、紗智が訊ねる。

「じゃあ、どうして橋本君を?」

「話さなくなったから、かな。失って初めて気づいた。カッコよく言うなら、ね」

「響ちゃん、橋本君と話さなくなって寂しさを感じて。でも、その寂しさによって新しい自分の恋に気づいたんだね」

 真子が呟くように言った。

「でも、黒崎君への想いを忘れたわけではない…か」

 歩がそう続けた。

 確かにそうだとすると何も行動できない。

 やっぱり響ちゃんは、2人への想いを凍結したままにしちゃうの?

 舞はもどかしかったが、しばらくはそうした方がいいこともわかっていた。

「まだ私達も1年が終わったばかり。少し冷静に見ていくしかないよね」

 舞が諦めたように言うと、紗智がそれに賛成した。

「うん、焦らずに行こう。響ちゃん」

 他の2人も声には出さないが、心は同じだった。

 響歌はそれぞれの気持ちがわかり、胸が熱くなった。

「もどかしい思いをさせてごめんね。でも、きっと結論は出せると思うから。それまで気を長くして待っていてよ。取り敢えずこの春休みは、自分の頭をリフレッシュさせるよ」

 響歌は笑顔だった。

 笑顔でありがとうと皆に告げている。

 そんな響歌の笑顔に、4人もすぐに笑顔で応えた。