響歌は宮内駅で妙なものを見つけた。

 もしかして寝ぼけているのだろうか。そう思って目を擦るが、どうやらそうではないらしい。再び目を開けても、やはりいたのだから。

 この駅にいてはいけないもの…いや、人が!

「中葉君、こんなところで何をしているの?」

 響歌は挨拶もせず、宮内駅内のホームにいる人物に質問した。

「あぁ、響ちゃんか。おはよう、これから学校かい?」

 やはり中葉だった。

 しかし何故、柏原市在住の彼がこんな時間に私服でここのホームにいるのだ。学校には行かないつもりなのだろうか?

 中葉は響歌達がいつも乗る時間帯の電車に乗るらしい。この時間に、その電車が到着するホームにいるのだから。

 柏原市行の電車がホームに入ってきた。響歌の予想通り、中葉はその電車に乗り込んだ。

 響歌の後から来た川崎と山田も、中葉の姿に気づいて驚いた様子だ。

「中葉じゃないか。お前、こんなところで何をしているんだよ」

 響歌と同じことを山田が訊くと、中葉が眠そうに答えた。

「昨日から舞と浄瑠璃海岸でデートしていたんだけど、ちょっと宮内駅に長居したみたいで今の時間帯になったんだ」

 …ちょっとどころではないだろう。

 響歌は呆れて中葉を見ている。

 今回は補導されなかったみたいだが、それでもこれはダメだろう。まだ寒い季節に暖房も効いていないところで一晩過ごすなんて。

 ずっと一緒にいたい気持ちもわかるが、これでは節操が無さ過ぎる。途中でどちらかが止めなければいけないだろう。

 それにしても…ここで一晩過ごしたということは、今度こそ2人は最後までしてしまったのだろうか。

 響歌と同じことを、男2人も思ったようだ。

 山田がソワソワしている。

「お前…もしかして今井さんとやっちゃったの?」

 言葉に出してこそいないが、川崎も興味津々のようだ。

「いや、今回は眠くなって朝まで寝てしまったんだ。でも、近々するとは思うけど…」

 取り敢えず今回もムッチーは大丈夫だったみたいね。

 響歌は安堵したが、男達は残念そうだ。

「だけどいまいちやり方がわからないんだ。松村さんから聞いた話だけではちょっと…なぁ。女の側からの視点と男側からの視点では感じ方も違うみたいだし。誰か男でやり方を知っている人はいないかなぁ。あ、山田と川崎は知っているの?」

 中葉の質問に、男2人は慌てた。

「オレは残念ながらまだ知らないし」

 どうやら山田はまだ経験していないらしい。

「オレもまだ経験が無いから。高尾あたりなら知っているんじゃないか?」

 川崎もそうらしく、高尾を勧めた。

「やっぱり可能性が高いのは高尾だよなぁ。今度聞いてみようかなぁ。でもなぁ…」

 朝の満員電車内でこんな会話を平然としないで欲しい。

 響歌は他の人達からこの3人の仲間だと思われたくなかったので、話の途中で3人から離れた。

 3人はまだ顔を突き合わせて話しているようだ。彼らの周囲にいる人達が彼らに注目しているので内容もさっきの続きだということがわかる。

 響歌は舞が気の毒になってきた。

 裏表が無いのはいいことなのだろうが、こんなに開けっ広げにされても嫌なものだ。自分の彼氏だったら即別れていただろう。

 舞は中葉と最後までする前に別れた方がいいのではないだろうか。

 そうしなければ、経験した翌日には学校中に舞と中葉の情事が広まるような気がする。常にトリップしているのならいいが、普段の舞は超人の目を気にする性格だ。とてもじゃないけど学校には来られなくなるだろう。真子の件もあるのだ。これ以上の厄介ごとはごめんである。

 だが、舞は中葉にぞっこんだ。周囲が別れろと言っても別れないだろう。それどころか意地になってつき合い続けてしまう。

 これも真子の件同様、黙って見守るしかないのだろうが、何もできない自分に焦れる響歌だった。



 一方、その頃の今井家では…

 鬼瓦と化した母親と姉に人によってこっぴどく叱られ、その後、意気消沈して自分の部屋のベッドに倒れ込んだ舞の姿があった。