舞は宮内駅のトイレの鏡の前で色々なポーズをとっていた。
 
「うん、完璧ね」

 やっぱり私って、いい女だわ。

 今日は待ちに待った、中葉君とのデートの日。中葉君に会う前に入念にチェックをしておかないとね。

 昨日はあれからすぐに響ちゃんと別れて、その足で今日の服を購入。そして家に帰って入念に肌のチェック、髪質のチェックをし、美容の為に夜10時に就寝したのよ。お陰で、今日の肌はピカピカのツルツルだわ。

 中葉君、惚れ直してくれるかしらね?

 相変わらずなことを思いながら、スマホで時間の確認をする。

「あっ、いけない。そろそろ行かなくっちゃ」

 舞は鏡の前で半回転して自分の後ろ姿もチェックした後、宮内駅のトイレを後にした。

 中葉との待ち合わせの場所は宮内駅の正面入口だ。舞はそこまで走っていった。何やら改札付近が騒がしい。改札では電車から降りた人達が外に出ようと列を作っていた。この駅の改札は一つだけなので、改札から出るのに時間がかかるのだ。

 多分、あの列の中に中葉がいる。

 舞は中葉の姿を探したが、列の中に中葉の姿は無い。

 おかしいわね。中葉君がいたら、愛の力ですぐに見つけることができるのに。

 もう少し近づいて探そうと改札に進もうとした時、舞の肩を誰かが叩いた。

「舞、何をしているの?」

 舞の肩を叩いたのは中葉だった。

「あれ、もう改札から出ていたんだ。てっきりまだホームにいると思っていたのに」

 舞はそう言いながら中葉を見て、その姿に目を疑った。

 中葉は白いズボンに白い厚手のシャツ。その上にクリーム色のベストを着ていた。その恰好は初デートの時とまったく一緒だった。

 いくら気合を入れて購入したとはいっても、同じ格好が続くとわざわざ新しい服を購入した自分がバカらしく思えてくる。

 だが、舞はそんな思いを振り切るように頭を振った。

 ダメよ、ダメっ、そんなことを思っちゃ!

 この間、中葉君が言っていたじゃない。持ち金の少ない中、私の為に服を新調したって。

 違う服装で来て欲しかったという我儘なんて絶対に言っちゃダメなんだから!

 舞がそんなことを必死で自分に言い聞かせている中、中葉は頬を赤く染めて舞を見つめていた。

「舞の今日の服装は素敵だなぁ。もちろんこの間のも良かったけど、オレの為に一生懸命お洒落してくれていることが伝わって嬉しくなるよ。なんだか舞を見ていると、この前と一緒の服装の自分が恥ずかしくなるなぁ。ごめんよ」

 先程の自分の思いを見透かしたような中葉の言葉に、舞は慌てた。

「そんなことないわよ。中葉君のその恰好って、やっぱり素敵だもの。私の為に一番お気に入りの服をデート着にしてくれたのね。安っぽい恰好で毎回来られるよりも断然いいわよ。その服装から、私への愛も感じられて凄く幸せだわ」

「嬉しいなぁ。やっぱり舞は優しいね。これで心置きなく次からのデートもこの格好で来ることができるよ。ありがとう」

 えぇっ、次からもこの格好なの?

 舞はついそう思ってしまったが、やはりその思いを大きく頭を振って消す。

「じゃあ、早く行きましょう。今日は天気もいいし、絶交のデート日和になるわ」

 舞は中葉を促したが、中葉の足は止まったままだ。

「どうしたの。早く行きましょう」

「舞、行くのはそっちじゃないよ、こっち。先に自転車乗り場に行こう。オレの自転車があるんだ」

 えっ、中葉君の自転車が?

「なんで宮内駅に中葉君の自転車があるの?」

「昨日、学校が終わるとすぐに家に帰って、親に車に乗せてもらって宮内駅まで置きに来たんだ。橋本と響ちゃんの2人乗りを見て、オレ達もしたいと思ってさ」

 2人乗り…あぁ、学生カップルにはつきものの、自転車の2人乗り!

 響ちゃん達の2人乗りを見てから自分達もしたいって思っていたのよ。

 さすが私と中葉君。以心伝心ね。

「そうよね、中葉君。私も2人乗りはしてみたかったの。あれこそ青春時代の恋人の特権だし、象徴でもあるもの。まだカップルにもなっていない2人になんか負けていられないわ。私達も早く2人乗りを経験しましょう」

「じゃあ、早速乗ってみようか。そうと決まれば、早く自転車乗り場に行こう」

「そうね」