「じゃあ、どうしたのよ。高尾君に関することみたいだけど、もしかして何か行動を起こすつもりなの?」

「そういうわけじゃないんだけどね。2人を見ていると、なんだか羨ましくなって…」

「羨ましいって、どういうことよ?」

「私はずっと高尾君のことを見ているだけなのに、その間、ムッチーは好きな人とつき合えたし、響ちゃんは確かに失恋中だけど、それでも黒崎君と気軽に話しているでしょ。2人のまわりが凄く華やかに見えて羨ましくなって。私も高尾君と話がしたいなぁと思ったの」

 高尾君とお話だなんてとんでもない!

 もしかしてまっちゃんの相談って、高尾君と話がしたいっていうことなの?

 そんな、そんなことをしたらアレがバレるじゃないの、アレが!

 舞の額に冷や汗が出てきた。

 こういう場合って、どうしたらいいんだろう。

 舞には対策が思いつかなかったが、響歌の方はまだ冷静だ。ここは任せるしかない。

「で、話をするにはどうしたらいいのかって、私達に訊きたいのね?」

「そういうことになるのかな。でも、話しかけるきっかけも無いし、勇気も無いの。でも、見ているだけだと、とても辛くて…」

 なんとかしたいと思うのなら、まず自分で何かを打ち破らなければならない。

 それは真子もわかっているみたいなのだが…

「こういうのって、誰かに相談しても、結局は自分でなんとかしないといけないからね。きっかけは待っていてもやってこない。それはこの1年で十分わかったんじゃない?」

「…そうだね」

「だったら自分できっかけを作らないと。特にまっちゃんは高尾君と同じクラスなんだから。きっかけなんて私や歩ちゃんよりも作れるはずだよ」

「でも…同じクラスとはいっても、もう少ししたら離れるかもしれないもの。それだときっかけも今以上に無くなっちゃうでしょ?」

 そうか、あと1カ月もすれば2年生。今まですっかり忘れていたけど、クラス替えの季節になってしまうんだ!

「だからまっちゃんは焦っているんだ」

 同じクラスの時に一言でも話せたら…と思っているんだね。

「そうなんだ。でも、焦れば焦る程、緊張しちゃって。それに高尾君って、野口さんと仲がいいでしょ。もしかして野口さんのことが好きなんじゃないかと思ったんだ」

 真子の言う通り、最近の高尾は野口とよく話をしている。しかも楽しそうに。

 だが、それだけでそう思うのは早急だ。野口は高尾の好みではないだろう。不細工ではないが、女の子っぽい可愛らしさは無い。どちらかというとキツイ部類で、リーダー的タイプだ。

 だから野口さんじゃないと思うのだけど…

「野口さんとは話をしているだけだと思うよ。男の人って、話しかけたら話してくれるよ。でも、話すよりも、最初は挨拶からかな」

 舞が得意そうにアドバイスをすると、響歌が吹き出した。

「なんで響ちゃん、吹き出すのよ!」

 響歌は舞の文句を無視して真子に笑いかけた。

「確かにムッチーの言う通りよ。まっちゃんも挨拶から始めてみたらどうかな。それに今日の3時間目、教卓にあったプリントを高尾君に持っていってあげていたよね」

 そう言えば、私も見たわよ、それ。

 ビーバーに呼ばれて取りに行かないといけないプリントがあったんだけど、高尾君がそれを取りに行くのが遅れたの。だからすぐ後に呼ばれたまっちゃんが持って行ってあげていたのよ。話しかけることはできないのにこういうことはできるんだって、あの時は感心したんだから。

 そういうことをするのと話しかけることって一緒のことだと思うのに、なんで話しかけることはできないのだろう?

 正直なところ、まっちゃんが高尾君に話しかけてしまうと、私としてはとても困るのだけど…

 でも、まっちゃんの為にも何かいいアドバイスをしてあげないとね。

「じゃあ、気が利くところや、優しいところをアピールしていったらいいんだよ」

 今からだと遅いかもしれないけど、何もしないよりはいいはずだ。

 響歌も今度は吹き出さずに同意した。

「そうだね。そんなチャンスも少ないとは思うけど、やらないよりはいいよね。それにもしクラスが離れても、学校が離れるわけじゃないんだから。まだ2年間は希望が残っているんだよ。もっと気楽に構えようよ」

 真子は2人の言葉によって、かなり気が楽になった。

 でも、決心していることがあるのだ。2人の言葉に甘えてはいけない。

「アドバイスしてくれてありがとう。2人の言うようにクラスが離れても、どうせ同じ経済科で隣のクラスになるだけだから顔を合わせないことは無いもんね。でもね、実は私、高尾君とクラスが離れたら告白しようと考えているの」

『えぇっ!』

 舞と響歌は同じタイミングで叫んでしまった。