舞と中葉の初デートの翌日、舞は響歌と一緒に5時間目の体育をサボって女子休養室に来ていた。

 今日の体育はバドミントンのテストだったが、今の2人にとってはそれどころではない。昼休みの時、なんともまぁ、互いにとっては聞き捨てならない内容を聞いたのだ。こんな時に体育に出て悠長にポコンパカンとしていられるわけがない。

 それでも時間は限られている。6時間目はどうしてもサボれない授業なのだ。

 響歌はどちらが先に話すか少しモメるかもしれないと思ったが、意外にも舞の方から自分が先に話したいといった申し出があったのでそうすることにした。

「で、どうだったの。とうとう大人になっちゃったの?」

 舞は自分を落ち着かせる為に一つ呼吸をする。

「あの後ね」

「うん、あの後、やっぱり…」

「補導されちゃいました」

 はぁ?

 思いもよらなかった結末に、響歌の頭が真っ白になった。

 補導って…あの、若者が警察に捕まるといった、あの補導よね?

 えっ、なんでいきなりそんなことになっているのよ。

 響歌はわけがわからなかったが、自分の目の前にいる舞が嘘を吐いているようには見えなかった。

 舞は両手で自分の顔を覆ってうなだれている。補導されて恥ずかしかったのか、残念だったのか。舞の心理まではわからないが、2人にとって最悪過ぎる結末だったことには違いない。

「もしかして…忍び込んでいたのがバレたの?」

 一応疑問形にはしたが、響歌はもうこれしかないだろうと思っていた。他の理由などまったく思い浮かばない。

 案の定、舞は頷いた。

「その部屋の管理人らしいおじさんに見つかって、警察に通報されたの」

「また大事になっていたんだね」

 響歌が力無く言うと、伏せていた舞が顔を勢いよく上げた。

「それにしたって、もう少し確認して欲しかったよ。だってあのおじさんったら、ゴソゴソしていたという理由だけで警察に連絡したんだよ。普通は電気をつけて確認くらいするでしょ!」

「まぁ、そうかもしれないけどさぁ」

「それなのにそんな確認作業を怠ったお陰で、私達は補導されてしまったの。いきなり警察にライトを照らされて『誰だ!』って、極悪犯人を見つけたように言われたんだから。その後はパトカーで連行されて、親に連絡されて。その私の親にも、凍っていた道を迎えに来させた形になったから、朝までガミガミ怒られたしさぁ!」

 それはもう自業自得だと思う。

 響歌は呆れ果てたが、舞は怒っていた顔を一変させてうっとりとした。

「でもね、警察に見つかった後の中葉君ってば、凄く堂々としていてカッコよかったのよ。普通の男なら、オロオロして情けない姿をさらすはずなのに。中葉君って、やっぱり素敵。舞、惚れ直しちゃった」

 うっとりとした表情のまま遠くを見ている。

 響歌は頭が痛くなってきた。

 いったいいつになったら目が覚めるのだろう。

 勘弁して欲しいわよ…まったく。