「で、さっちゃんの恋愛事情はどうなの。誰か好きな人はいるの。まさか響ちゃんみたいに『実はつき合っていました!』なーんていう電撃発表があるんじゃないでしょうね」

 舞はソワソワしていた。

 何しろ紗智は文化祭の時に怪しい行動をしていたのだ。しかもその相手は、もしかすると響歌に…の状況だ。この後は修羅場になるかもしれない。

 その時は、私がなんとしてもさっちゃんをなだめなくっちゃ!

 それでも舞の意気込みも虚しく、紗智はサラッと言った。

「好きな人なら1組にいるよ」

『えぇっー!』

 そんなバカな!

 まさか橋本への恋が実る可能性が無いから、別のターゲットを見つけたのか?

 顔触れは少しずつ違ってはいても、やはり心の中でハモる4人。

 気が合うにも程がある。

「その人って、いったい誰なのよ。いつから想っているの?」

 響歌が突っ込んで訊いても涼しげな顔を崩さない。

木村治樹(きむらはるき)君だよ。でも、さっきも言ったように1組だから、みんなは知らないと思う」

「なんだってー。木村治樹君って、また人気がある人じゃないの。私も密かにチェックしていたのよ。さっちゃんってば、なかなかやるじゃない!」

「響ちゃんは木村君っていう人を知っているんだ」

 1人で絶叫している響歌に、歩が感心したように呟いた。

「当ったり前じゃない。私達のクラスは男子が少ないんだから普通科チェックくらいはしておくべきでしょうが。いやぁ、私はさっちゃんを甘く見ていたわ。真面目なだけが取り柄なわけじゃなかったのね」

 響歌は少し嬉しそうだったが、それとは反対に紗智は嫌そうだった。

「私を響ちゃんと一緒にしないで。木村君のことは中学が一緒だったから知っていただけなの。入学初日から普通科チェックをしていた響ちゃんとはまったく違うから」

「なーんだ、同じ趣味の友を見つけたと思ったのに。残念」

 響歌は本当に残念そうだった。

 そんな彼女をよそに、真子が質問を続けた。

「じゃあ、さっちゃんは中学の頃からその木村君っていう人が好きだったの?」

 紗智が無言で頷いた。

 歩も真子に続いて質問する。

「告白はしなかったの?」 

「いや、その、告白するまでではなくて。ただ、ちょっとだけいいなって思っているだけで…」

 紗智はとても言いにくそうだった。

 彼女は真面目人間。こういった話をするのはやはり得意じゃないのだ。

「なーんだ、そうなのかぁ。じゃあ、それが恋愛に発展するか他の人に目が向くのかは未定っていうことなんだね」

 さっちゃんの恋愛もとっても興味があったのに!

 舞は凄く残念だったが、紗智は舞の様子を気にすることなく言った。

「そういうこと。だからもう私の話はこれでおしまいね」

 あっさりと話を終わらせてしまった。

 4人は少し不満だったが、誰も紗智にはそれを言わない。

 いや、言えない!

 あっさりと歩の出番になってしまった。