その日の昼休み、響歌と亜希はいつものように4組に行かず、2人だけで視聴覚室前にいた。
「へぇ、今までこんなところまで来ることが無かったけど、意外と静かでいいものだね」
「でしょ。この場所は意外と穴場スポットなんだよ。私も1年の時から利用しているんだ」
2人は視聴覚室の前にある階段に座っている。ここに来るまで他の生徒とすれ違わなかったし、ここに来るような足音も聞こえない。内緒話をするにはうってつけだ。
早速、響歌はここに来た目的を果たそうと切り出す。
「で、なんで亜希ちゃんは、まっちゃんが下田君に惚れていると思ったの?」
亜希は真面目な顔になり、話し始めた。
「あのね、初めてそうじゃないかと思ったのは1年の時だったんだ」
「1年の時?」
「1年の時の下校時だったかなぁ。柏原駅にいる時、まっちゃんが『谷村さんって、下田君のことが好きなのかなぁ』って言っていたのよ。私が理由を訊くと『定期入れの中に下田君の写真を入れているらしい』って。その時、少し引っかかって…ね」
谷村さんが下田君の写真って。そんなバカな。
でも、それにしたって、そのやり取りだけでそんな発想になるなんて…
響歌は少し引っかかったが、自分が知っている情報の一部を言う。
「そんなことがあったんだ。でも、谷村さんは高尾君のはずだよ。定期入れの中の写真も、本当は高尾君なんじゃないかな。あっ、でも、1年の時だしなぁ。もしかしたら谷村さんって、1年の時は下田君のことが好きだったのかもしれないね」
「えぇっ、谷村さんって、高尾君の方が好きだったの!」
亜希は驚愕した。
「なんだ、そうだったんだ。てっきり2人共、下田君のことが好きなんだと思っていた」
…おや、なんで亜希ちゃんがホッとするのかな?
疑惑の眼差しを向けながらも、さしさわりないことを口にする響歌。
「でも、それが初めて感じたということは、その後にもまっちゃんの行動で何か思うところがあったの?」
「いや、別にこれといって、無い。でもさ、まっちゃんのような人って、好きな人ができてもそれを心の中にそっとしまっておくタイプじゃない?」
まったくもって、その通り!
だが、響歌からすれば、それだけのことでは真子が下田のことを好きだという発想にはならない。よくある女子高生の噂話だ。
それなのに、それだけで気にするなんて…ねぇ?
「亜希ちゃんってさぁ、もしかして下田君のことが好きなの?」
「えぇっ!」
なんでまっちゃんの話から私の話になっているの!
亜希は不思議で仕方がなかった。
だが、響歌は疑問形ではあったものの、確信しているような感じだった。
「え、え~と…」
いきなり過ぎる質問にどう返答すればいいかわからない。そればかりかうろたえてしまう。顔も赤くなっていた。
はっきりいって、バレバレだった。
「なーんだ、そうだったのか。それなら早く言ってくれたら良かったのに。水臭いなぁ」
「な、なんでわかるの。響ちゃん、鋭過ぎ…」
恥ずかしくてたまらない。
亜希は今まで自分の恋心を誰にも言ったことが無かった。こういうことを告げるのは、いくら相手が友達だったとしても勇気がいる。しかも好きな相手は同じクラスで響歌も知っている。恥ずかしさも倍増だ。
それなのに、あっさりバレてしまった…
亜希はうなだれたが、その隣で響歌は涼しげな顔をしていた。
「そんなに恥ずかしがることは無いでしょ。経済科の男子を好きになるなんて、あんたに限った話じゃないんだから」
「えぇっ!」
亜希が驚いて顔を上げる。
「私は橋本君が好きだし…」
「えぇっー!」
「橋本君の前に好きだった人は黒崎君だもの」
「えぇっー!」
響歌の爆弾発言連発に、亜希は声をあげるだけだった。元々大きい亜希の目も、今はより一層大きく開いている。
自分の好きな人をあっさりバラした響歌は、バラす前と同じく涼しい顔をしていた。
亜希が響歌に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと、そんなことを簡単にバラしてもいいの。橋本君も黒崎君も私の知っている人なのよ。恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいも何も無いわよ。事実だもの。それに亜希ちゃんの好きな人を知ったから、自分の好きな人も言っておいた方がいいかと思って。亜希ちゃんだったら、私の好きな人達にバラすことはないと信じてもいるしね」
響歌の言葉に、亜希はなんだか嬉しくなった。自分の好きな人が響歌にバレて良かったとさえ思えてくる。
「言ってくれてありがとう。じゃあさ、なんで黒崎君から橋本君になったのか教えてよ。私も下田君とのことを教えるから」
亜希からの言葉を断る理由は、響歌には無かった。
そこから2人は、お互い好きになったきっかけや、これまであったことを話したのだった。
その話も終盤を差しかかった頃、遠くからバタバタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
「あっ、いたいた。ちょっと聞いてよ、響ちゃん。また机に中葉君が交換日記を入れていてさぁ!」
顔を真っ赤にしながら舞がやってきた。その手には赤い表紙のノートがある。かつて舞が中葉としていた『愛の交換日記』だ。
響歌が肩をすくめた。
亜希は何がなんだかわからず呆然としている。
「あっ、亜希ちゃん!」
舞は響歌の近くまで来て、ようやく亜希の姿に気づいた。
慌てて口を塞いだが、もう遅い。
「えっ、何、交換日記って、中葉君としているの?」
舞の身体は久し振りに石像と化した。
「へぇ、今までこんなところまで来ることが無かったけど、意外と静かでいいものだね」
「でしょ。この場所は意外と穴場スポットなんだよ。私も1年の時から利用しているんだ」
2人は視聴覚室の前にある階段に座っている。ここに来るまで他の生徒とすれ違わなかったし、ここに来るような足音も聞こえない。内緒話をするにはうってつけだ。
早速、響歌はここに来た目的を果たそうと切り出す。
「で、なんで亜希ちゃんは、まっちゃんが下田君に惚れていると思ったの?」
亜希は真面目な顔になり、話し始めた。
「あのね、初めてそうじゃないかと思ったのは1年の時だったんだ」
「1年の時?」
「1年の時の下校時だったかなぁ。柏原駅にいる時、まっちゃんが『谷村さんって、下田君のことが好きなのかなぁ』って言っていたのよ。私が理由を訊くと『定期入れの中に下田君の写真を入れているらしい』って。その時、少し引っかかって…ね」
谷村さんが下田君の写真って。そんなバカな。
でも、それにしたって、そのやり取りだけでそんな発想になるなんて…
響歌は少し引っかかったが、自分が知っている情報の一部を言う。
「そんなことがあったんだ。でも、谷村さんは高尾君のはずだよ。定期入れの中の写真も、本当は高尾君なんじゃないかな。あっ、でも、1年の時だしなぁ。もしかしたら谷村さんって、1年の時は下田君のことが好きだったのかもしれないね」
「えぇっ、谷村さんって、高尾君の方が好きだったの!」
亜希は驚愕した。
「なんだ、そうだったんだ。てっきり2人共、下田君のことが好きなんだと思っていた」
…おや、なんで亜希ちゃんがホッとするのかな?
疑惑の眼差しを向けながらも、さしさわりないことを口にする響歌。
「でも、それが初めて感じたということは、その後にもまっちゃんの行動で何か思うところがあったの?」
「いや、別にこれといって、無い。でもさ、まっちゃんのような人って、好きな人ができてもそれを心の中にそっとしまっておくタイプじゃない?」
まったくもって、その通り!
だが、響歌からすれば、それだけのことでは真子が下田のことを好きだという発想にはならない。よくある女子高生の噂話だ。
それなのに、それだけで気にするなんて…ねぇ?
「亜希ちゃんってさぁ、もしかして下田君のことが好きなの?」
「えぇっ!」
なんでまっちゃんの話から私の話になっているの!
亜希は不思議で仕方がなかった。
だが、響歌は疑問形ではあったものの、確信しているような感じだった。
「え、え~と…」
いきなり過ぎる質問にどう返答すればいいかわからない。そればかりかうろたえてしまう。顔も赤くなっていた。
はっきりいって、バレバレだった。
「なーんだ、そうだったのか。それなら早く言ってくれたら良かったのに。水臭いなぁ」
「な、なんでわかるの。響ちゃん、鋭過ぎ…」
恥ずかしくてたまらない。
亜希は今まで自分の恋心を誰にも言ったことが無かった。こういうことを告げるのは、いくら相手が友達だったとしても勇気がいる。しかも好きな相手は同じクラスで響歌も知っている。恥ずかしさも倍増だ。
それなのに、あっさりバレてしまった…
亜希はうなだれたが、その隣で響歌は涼しげな顔をしていた。
「そんなに恥ずかしがることは無いでしょ。経済科の男子を好きになるなんて、あんたに限った話じゃないんだから」
「えぇっ!」
亜希が驚いて顔を上げる。
「私は橋本君が好きだし…」
「えぇっー!」
「橋本君の前に好きだった人は黒崎君だもの」
「えぇっー!」
響歌の爆弾発言連発に、亜希は声をあげるだけだった。元々大きい亜希の目も、今はより一層大きく開いている。
自分の好きな人をあっさりバラした響歌は、バラす前と同じく涼しい顔をしていた。
亜希が響歌に詰め寄る。
「ちょ、ちょっと、そんなことを簡単にバラしてもいいの。橋本君も黒崎君も私の知っている人なのよ。恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいも何も無いわよ。事実だもの。それに亜希ちゃんの好きな人を知ったから、自分の好きな人も言っておいた方がいいかと思って。亜希ちゃんだったら、私の好きな人達にバラすことはないと信じてもいるしね」
響歌の言葉に、亜希はなんだか嬉しくなった。自分の好きな人が響歌にバレて良かったとさえ思えてくる。
「言ってくれてありがとう。じゃあさ、なんで黒崎君から橋本君になったのか教えてよ。私も下田君とのことを教えるから」
亜希からの言葉を断る理由は、響歌には無かった。
そこから2人は、お互い好きになったきっかけや、これまであったことを話したのだった。
その話も終盤を差しかかった頃、遠くからバタバタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
「あっ、いたいた。ちょっと聞いてよ、響ちゃん。また机に中葉君が交換日記を入れていてさぁ!」
顔を真っ赤にしながら舞がやってきた。その手には赤い表紙のノートがある。かつて舞が中葉としていた『愛の交換日記』だ。
響歌が肩をすくめた。
亜希は何がなんだかわからず呆然としている。
「あっ、亜希ちゃん!」
舞は響歌の近くまで来て、ようやく亜希の姿に気づいた。
慌てて口を塞いだが、もう遅い。
「えっ、何、交換日記って、中葉君としているの?」
舞の身体は久し振りに石像と化した。