紺色のダブルのブレザー。襟元から見える赤色のリボン。そして膝下まである水色と白色が交差するチェック柄のスカート。

 それらを身に着けた、今日の私。

 う~ん、なんて決まっているのかしら。

 全身が入るくらい大きな鏡の前で、少女は自分の姿に酔いしれていた。

 彼女の名前は、今井舞(いまいまい)。今日から彼女は比良木(ひらぎ)高等学校経済科の生徒になるのだ。

 今井舞…上から読んでも下から読んでも『いまいまい』だ。その為に幼い頃はからかわれたこともあったが、本人はこの名前がお気に入りだ。

「舞、早く学校に行かないと遅刻するぞ!」

 舞の父親が彼女の部屋に姿を見せた。

 突然、鏡越しに自分の父親の姿を見てしまった舞は、心臓が飛び出すくらい驚いた。

「父さん、いきなり部屋に入ってくるのは止めてって、いつも言っているでしょ。ただでさえ父さんの顔は怖いんだから!」

 舞の言う通り、父の顔は怖い。吊り上がりの目といい、頭のチリチリパーマといい、パッと見てその筋の人と間違えられるのは日常茶飯事だ。

 舞に怒鳴られた父親は、顔に似合わず落ち込んだ。

「ごめんよ。でも、もう家を出ないと、学校が…」

「そうよ、今日は大切な学校の初日なのよ。だからこそこうして自分の登校スタイルを一生懸命研究しているんじゃない。薔薇色の高校生活を送るには、やっぱり第一印象が大切なんだか…」

 言葉の途中、舞はようやく父の言葉の意味に気づく。

 …まさか。

 恐る恐る時計を見てみると、なんと7時半になっていた。

「キャー、なんで父さん、何も言ってくれなかったの。まったく役に立たないんだから!」

 舞は慌てて鞄を持つと、家を飛び出した。