「俺もう帰るんで。また仕事で。」


早くこの場を立ち去りたいだろう李桜に俺は言った。


「じゃあ今度家に行かせて。結婚祝い、持ってくから。」

「別に····、物とか要求してないんで来たい時に来ればいいでしょ。」


さっさと玄関へ向かって靴を履くと一言だけ言って帰ってしまった。
李桜が家族。俺にはまだ残された家族がいるんだな。


「桜音羽、俺手料理でも持ってっちゃおうかな。」


そう言ってキッチンに立ち久々に予習をすることにした。包丁すら持ったことのない俺に桜音羽はレシピノートを遺してくれた。桜音羽に作ってもらうことは出来なかったけど桜音羽に食べてもらったことならある。

桜音羽との時間が足りなくてかなり不味かった印象だ。けど桜音羽はいつだって『美味しい。』『次はもっと上手になる。』そう言って励ましてくれた。

今だって諦めずに作ってるけどこの味が正しいのかはわかんないし。いい機会だから李桜に食べてもらおうと思う。




━━━プルルルル━━━


充実した料理時間を過ごしているとあいつからの電話だった。


「なんの用?周作。」

〔もひもし?お前さぁ公表するんならつたへとけよ!〕


発音から明らかに酔っているのがわかる。
どうせ4人で飲みに行った結果だろう。


〔あんな視線の中にたったひとりで立つなら一緒にたってやったのに·····〕

〔アハハハハハハ·····!〕

〔酔いすぎだろー!〕

〔あお、先に帰っちゃうなんてひでー、〕

〔明日は家に突撃すっからなー〕




言いたいことを言うだけ言って電話を切られた。相変わらず自由なヤツら。それは俺もだけど。



多分周作は泣いてんだろうな。想像して笑えるくらい、俺は元気に過ごせてるってことだ。