このことを伝えれて良かったと感じた。だって目の前には桜音羽の為に涙を流してくれる人がまだいるのだから。

「私にとってもまだ友人です。もう一人の子は結婚して子供もいますが時々会っては桜音羽はどうしてるだろうかと口にしてるんです。今度会ったら報告しておきます。教えてくれてありがとうございました。
桜音羽のことがわかっただけでも私はこの仕事を続けてよかったと心から思えました·····。」


深々とお辞儀をした彼女はそのまま部屋を出ていった。俺も帰って桜音羽に報告しよう。



「今日はどこかに飲みに行くか?」

「こんな日だからこそ家に帰んの。」



慣れたマネージャーにそう言って俺は家まで送ってもらう途中、桜音羽を思い出し寂しくなった。

ある日桜音羽は教えてくれた。病院に行く少し前から両親が夢に出てきたと。そしてそれは何度か起こって彼女は思ったそうだ。『私が道に迷わないように夢の中で会いに来てくれた。それが嬉しかった。』

だから俺は桜音羽にお願いしたんだ。『もし、会えなくなったら夢で会いに来てね。』余命宣告をされていた彼女にお願いをするとあっさりと断られてしまった。

理由を聞くと『夢で会いに来る必要なんてない。だって周りに助けてくれる人達がいるでしょう?』そんな彼女に冷たさを感じたのも束の間、『大きな会場でコンサートをする時は必ず見に行くね。』そんな言葉を聞いた。


それから数日後に桜音羽は俺の前から消えた。奏は桜音羽が亡くなってからお喋りな男たちの会話はなくなった。意外にも1番ダメージを受けていたのは周作だった。けど年が過ぎるにつれ自分たちに受け入れていった。


時間が過ぎていく中で桜音羽は約束を守ってくれていた。奏が新しく大きな会場でコンサートをすると不思議と桜音羽の視線を観客席から感じた。そして楽屋にいると彼女の穏やかな懐かしい空気が漂っている気がしたんだ。そんなことを周りには言わないけどかなり嬉しく感じた。