彼女の兄は俺と暮らすまで彼女が暮らしていた部屋をそのままにしてくれていて、初めて彼女の部屋へ足を踏み入れました。

驚くほど片付いていて兄に聞いたんです。『いなくなった後に片付けなんてしたら寂しくなっちゃうでしょう?』そう言って余命宣告を受けてから地道に整理していたそうです。


そして俺はあるノートを見つけました。実際は彼女の机に置かれていて俺が行く前に彼女の兄が置いていてくれたんだと思います。

多分ね·····俺が見落とさないように。


そのノートには生前彼女と話したあるものが書かれていました。
彼女との残された時間を俺はよく動画を撮っていました。彼女は一般人だったので今回、音声を少しだけ流したいと思います。」


『今日の体調はどう?』

『元気だよ。ほら、顔色もいいでしょ?』

『俺の方が顔色悪いかも。』

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『周作に怒られた。』

『また?昨日も私が仲裁したのに。』

『今じゃ周作と俺より仲良いんじゃない?』

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『いつか君の書いた歌詞に俺が曲をつけたりしたいなー。』

『私は音楽なんてわからないから歌詞なんて書けない。』

『思ったことを書いてくれたら手直しくらいいくらでもするし。』

「むり·····!」

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目を閉じると無限に広がる鮮明な桜音羽との幸せな記憶の日々。まだそこにいるようにすら感じられる。