何気なく行った一言に桜樹は首を振った。


「確かにグループの番組も増えて知名度は上がりました。声をかけられることも以前とは比べ物にならないくらい。けどそれは奏が解散したからです。奏がいなくならなかったら俺達はここまで来れてない。先輩の言い方だとただの嫌味ですよ。」


悔しそうな桜樹はまた下を向いた。


「俺が一人でやってみたくなったからね。3年くらい前にひとりで届けたい音楽を見つけた。メンバーに伝えたら解散って話になって····やっと1年半前に区切りがついて明日でソロとして1周年。結構時間がかかったけどやっと世界に届けられる。」


「その音楽は大切かもしれないけどアイドル年齢の限界を超えて15周年を迎えた奏は俺たちの憧れでした。もったいなかったです。しかもソロ1周年でドームに立つような人に褒められても自分たちは『まだまだ』って言われてるだけなんで。」


むすっとした桜樹にふと桜音羽の面影を重ねた。桜音羽は兄とは違うと思ってたけど本当はこの兄妹の顔はかなり似ている。

「可愛いよな。」

「気味の悪いこと言うと訴えます。」

相変わらず嫌われてんな俺。けどこんな距離感も嫌いなわけではない。先輩後輩の関係を超えているはずだけど友達とも家族とも思われてない。····たまには家族っぽく、なんて思うけれど桜樹がこれでいいなら別に。


「明日顔パスにするから雪ちゃんと2人で来いよ。義兄ちゃん。」

「義弟とか最悪。」


更に睨みをきかせた年下の桜樹は俺にとってどうしても弟のように感じる。いつまでも憎くて可愛い。


「口は悪くてもお前は来てくれるって知ってるから。」


明日が自分にとって大きな仕事の日とは自覚しているから早めに桜音羽の待つ家に帰った。


「ただいま。李桜に会ったよ。相変わらずイケメンだった(笑)あの顔で性格まで優しいから人気になるはずだよね。····俺達は解散しなくてもきっと負けてた。まぁ俺たち5人なら悔しすぎて食らいついていくけどね。」



仏壇に話しかけても返事は無い。だけどそれでもそこにいる気がして何年も話しかけ続けてる。


「桜音羽·····、ついに明日だ。やっと自慢出来る。見にきてよ?」


窓を開けると少し冷たい風が吹き込んだ。3月なのにまだ寒く感じる。けど夜空は寒さなんて関係無さそうに綺麗な星たちが広がっていた。














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