朝食が運ばれてくるまでの間、お母さんの言葉を考えていた。
大切にしてくれる人を大切にすることは凄く難しいことだと感じた。

碧音さんは私を大切にしてくれた。今だって。

大切に、って⋯気持ちに応えること?だけど一緒にいたら碧音さんが悲しい思いをするだけなのに?


何が正解かも分からないまま時間だけが過ぎていった。


「小戸森さんがいらっしゃいましたよ。」


看護師さんはそう言ってカーテンを開けた。午前中来るとは思ってなくて少し驚いたけど会いに来てくれて嬉しいと感じる。

そして決めた。今考えていることを素直に伝えてみよう。



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出会ってからどんどん好きになっていったこと、一緒にいたいのに嘘をつくのが苦しくなったこと、それでも一緒にいたい。だけど碧音さんの邪魔をしたくない。


色んな感情が込み上げながらも何とか全てを伝えた。


沈黙が続くと思っていた私は碧音さんの言葉に驚いた。


「昨日思ったんだけどさ、俺の事めっちゃ好きみたいだよね。」


冗談交じりに笑う碧音さんをみて思わず言ってしまった。


「嘘じゃありません·····。」


言わずにはいられなかった。沢山嘘をついたから思われても仕方ないのに、好きっていう感情だけは信じて欲しかった。


「だったらもう一択しかないよね。」




口角を上げた碧音さんはカバンから何が紙を出てきた。そこに書かれている文字に私はまた驚いた。碧音さんの行動力には驚いてばかりだ。


「婚姻届、俺もう書いちゃった。」


目の前の机に置いた婚姻届の空欄をコンコンと指さし上目遣いで私を見つめる。こんな時に顔を使うなんてずるい。


「桜音羽の名前、書いてくれる?」