「だから僕が言っちゃった。覚悟を決めた顔だったよ。桜音羽っちの全てを受け入れる覚悟の顔だった。」


どこかスッキリとした顔の朝陽さん。彼は今どんな気持ちなんだろう。



「だから桜音羽っちもしっかり伝えるべきだよ。今動かなきゃ誰も幸せになれないって。じゃ、もう帰るね。」


「⋯わざわざそれだけを言いに来たんですか?」


引き止めるように声を発したけど朝陽さんは外に出るために扉に手をかけた。そして振り返ることなく一言だけ言った。



「別にー。
振られても相手の為に動ける僕を見せつけたかっただけ。桜音羽っちにいつか僕を選んどけばよかったって思って欲しいだけ。」


そのまま扉の向こうへ行って閉まりそうになった瞬間、私は久しぶりに大きめの声を出した。


「好きって言ってくれて嬉しかったです····!」


閉まる寸前の隙間から朝陽さんがこちらを見た。会った時から変わらない、優しく元気が貰えそうな笑顔だった。


『また来るね』


扉が完全にしまってしまうと胸に悲しさが積もった。たった数ヶ月だけど朝陽さんはずっと支えてくれてた。迷った時も、病気で困った時も、嘘をついて苦しくなった時も、隣を見ればいつも笑顔で気持ちを軽くしてくれた。

気持ちに答えることはできなかったけどこの感謝の気持ちを忘れずにいよう。そしていつか朝陽さんの隣に誰かいてくれますように。



私は時計を見た。まだ今日は碧音さんが来たって話は聞いてない。今はちょうど正午をすぎた頃、また来てくれるかな。ううん、絶対に来る。


「昼食でーす。····少しでも食べれますか?」


様子を伺っている看護師さん。最近はご飯もほとんど食べれていなかった。碧音さんといると沢山食べられたのになぁ。


「よし⋯、食べます! 」


碧音さんとしっかり話せるように、心配させないようにまずはご飯を食べよう。私は気分が悪くならないようにゆっくりと病院食の柔らかいごはんを口に運んだ。



食べ終わってもまだ碧音さんがやってきた様子は無い。病室にいるのがもどかしくて看護師さんに声をかけて部屋を出ることを伝えた。
久しぶりに病室の外に出るから看護師さんは心配したようで付き添うと言われたけど断ってしまった。


自分の足で、自分の力で会いに行きたかったから。