「桜音羽·····。」


冷たい私の手が暖かい手に包み込まれている。そんな感覚が伝わってきたけどここから戻る方法を私は知らない。




数ヶ月前の夢と同じだ。
小さいけれど綺麗な小川。

その先にいるのはきっと両親。


「お母さん、お父さん·····、」


もうそこに行く以外考えられなかった。
やっと2人におかえりって言える。
やっと抱きしめてもらえる。


「お兄ちゃんはね、アイドルになったんだよ。大注目されてて、きっとトップアイドルになれるくらい。メンバーとも仲が良くて·····」


素足で小川へ向かっていくと2人の顔が寂しそうだった。



『あと少し、頑張ってきなさい。』



お母さんの一言にお父さんも頷いている。
いつもなら“無理はさせなくていいんじゃないか?”ってお母さんに言うのに。


何を頑張ればいいの?


そんな言葉が出てこなくて強い風に覆われた。2人が見えない。最後に聞こえたのは旅行へ出かけたあの日のように穏やかな声だった。


『『待ってるからね。』』



━━━━━━━━━━


重く感じる瞼をゆっくりと開けると私の手を握って泣いているお兄ちゃんがいた。



「桜音、羽。おとはぁ·····」

「情けな、いなぁ·····」



こんなに大号泣しちゃって私のお葬式の時はどうするんだって思ってしまった。


私に気づいてお兄ちゃんは急いで先生を呼んでいた。天野先生はいつものように笑顔で診察が終わるとお兄ちゃんと病室の外へ行ってしまった。


看護師さんに日付を聞くと倒れた日から4日もたっていた。