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桜音羽目線。


碧音さんからの質問に私は答えられなかった。答えてしまえば今までの嘘が全部バレてしまうから。
最後のつもりでお願いをすると彼は笑って答えてくれた。


その笑顔にまた胸がちくりと痛んだ。



だけど·····


『桜音羽。』



耳の鼓膜に響いた声はピアノやフルート、どんな楽器より綺麗で自然と私の耳に届いた。


嬉しい。碧音さんに、好きな人に名前を呼ばれるとこんなにも幸せな気持ちになれるんだ。


気がつくと雷は止んでいて碧音さんは少しでも仮眠をとろうと言った。
疲れていたのかすぐに聞こえてきた寝息。


神様ごめんなさい。あと少し、あと1回碧音さんに会わせて下さい。


好きな人と最後の思い出に旅行へ行きたいです。これ以上は何も望みません。
年が明けて旅行に行けるまで私の命を奪わないでください。


空に祈りながら隣にいる碧音さんをずっと見つめていた。苦しくて切なくて涙が溢れそうなのに人生で1番幸せな気分だ。




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朝になると皆さんバタバタと自室から出てきて隣に寝ている碧音さんを見て写真を撮っていた。
後でいじるネタにするそう。

きっとこの人たちはいつまでも碧音さんの隣にいてくれる。



「じゃあまた1月に。 」

「うん予定も立てなきゃだし、連絡するから。····って言うのは口実で毎日電話していい?」

「待ってます····!」



車で送ると言ってくれたけど大人気アイドルは今日もお仕事。私は駅まで歩いて行けると言ってお別れした。



━━━プルルルル━━━

「もしもし?」

「桜音羽っちー、今どこ?迎えに行くよ?」


お兄ちゃんから聞いたであろう朝陽さんからの電話。


「大丈夫です。あと少しで駅なので·····、」


「まぁー僕もその駅にいるんだけどねー。」


駅の中で待ち合わせをして送ってくれるらしい。また朝陽さんは面白い話をしてくるんだろうな。


そんなことを考えながら駅の前の信号を渡っていると急に視界が暗くなった。
地震でも起きたのかと思えるほど地面が歪んで感じた。


「大丈夫ですか!?」

「近くにお知り合いの方はいますか!? 」


遠のく意識の中、知らない人達の声で私は自分が倒れてしまったんだと感じながら意識を手放した。