「わかった····、条件を「駄目です。」


「なんのつもり?碧音がやっと私のものになってくれるのよ!?邪魔しないで····!」


明らかに沙也加を興奮させるのはやばい。なのに俺の言葉を止めたのはナイフを突きつけられている彼女だった。


「碧音さんは物じゃありません。あなたに彼の行動を縛る権利なんてない。碧音さんが苦しむくらいなら私は命をかけても構いません·····。さぁ、どうぞ?」


沙也加の手首を掴んで自分の頬へ当てている。俺を含めみんな驚いていたと思う。俺達は穏やかな声で優しく微笑む彼女しか見たことがないから。冷たい目で怯むことなく沙也加を見つめている顔は俺達の知らない人物のように感じる。


「どうぞ。あなたの好きにしていいですよ。私は恨みませんから。」


沙也加は脅すだけのつもりだったのか手が震えているのが俺の位置からでも十分わかった。


「早くしないと誰か来るかもしれませんよ。出来ないのならやってあげましょう。」


その言葉に周りの思考回路が追いつかないまま彼女は沙也加の手首を掴んだまま自分へ振り落とした。


「·····は、はっ····ヒュッ······━━━」



身体を震わせて座り込んだのは沙也加だった。そして長く綺麗だった彼女の髪はナイフとともに床に落ちている。


沙也加は人を切ってしまったと思い恐怖で立てなくなっていたが実際は違った。彼女はナイフを自分の髪へと振り落とした。脅しでナイフを持った沙也加には十分な恐怖だったんだろう。