収録の手応えはかなりあった。放送されるクリスマスが本当に楽しみだ。
スタッフ達からは奏がこんなに親しみやすいと思わなかったと言われた。自然な奏の方がスタッフから評判が良かった。

そして俺は浮かれた足取りで自分の楽屋へ戻って行った。先に仕事が終わり奏の楽屋にお邪魔しておきますと連絡が来ていた。メンバーよりも早く楽屋へ着き、扉を開けた。

衝撃的な光景に俺は言葉を失った。



沙也加が俺を待っていた彼女にナイフを向けていた。どこかの撮影スタジオでとってきたんだろう。俺がドアを開けたことで一瞬動揺していたが気を取られた彼女の髪を掴んだ。


「·····何やってんだ。今すぐ離せ。沙也加·····!」

どんなに怒鳴ろうがビクともしない。どうすればいい?焦りだけが頭を支配する。


「どう?好きな女が傷ものになるのは?いい気味ね。まぁ····あなたが一生私のものになるって言うんなら別に離してあげてもいいけど?」


沙也加が話しているとメンバーも戻ってきて明らかに驚いている。当たり前だ。こんな非日常的な出来事誰も理解できるわけが無い。


「は?なんの状況?」

「誰か呼ばねぇと。」

「誰か一人でも部屋から出ればこの子が傷つくわよ?」


沙也加の一言に全員動きは止まった。数秒後には頭に血が上っていた。だが刃物が彼女に向けられている以上俺達は身動きが取れなかった。

彼女を救うためには選択肢はただ1つ。
俺さえ関わらなければこんな怖い思いをさせずに済んだんだ。