『探してたらお前の声がした。おい。誰だ?その男?』

シュンがサクヤさんを睨んだ。

『そっちこそ誰だよ?』

サクヤさんもシュンを睨んだ。

この場所は危険だ。

危険が過ぎる。

ダ○バとエボ○トが同時に現れた時くらいヤバい。

至急逃げよう。

2人が睨めっこをしている間に、花壇から離れようと足音を忍ばせて、こそこそと動き出した。

『おい。どこに行くんだ?』

しまった。

シュンに右腕を掴まれた。

これでは逃げ出せない。

『ヤヨイちゃんのコト、掴んでんじゃねぇよ。』

そう言ってサクヤさんは私の左腕を掴んだ。

退路を断たれて、完全に逃げられなくなった。

例えとかじゃなくて、そのまま前門の虎、後門の狼って感じだ。

2人の言い争いは止まらない。

『お前、ヤヨイっていうのか。おい。誰か知らんけど。コイツは俺の女だ。』

『ヤヨイちゃんの名前すら知らなかった奴が彼氏なわけがねぇ。ヤヨイちゃんはオレのモノ。既に体液交換も済ましてある。』

『な。なんだと!?』

体液交換っていうか、先輩が一方的に私の涙を舐めただけじゃん。

それを聞いたシュンがサクヤさんをさらに睨みつけた。

その後、私の方を見た。

『そうか。じゃあ消毒が必要だな。』

『んっ…!』

そう言い放ったシュンは、私の右腕を手繰り寄せた。

そして再びキスをされた。

先程とは違ってかなり力強く、濃厚なやつだった。

『…ふざけたことしてくれんな。』

すると今度はサクヤさんが、私の左腕を手繰り寄せてシュンから引き離した。

『消毒の消毒かな?』

『んんっ…!』

そして、サクヤさんも私にキスをした。

最初は唇を甘噛みし、徐々に唇を押しつけてくる。

強弱を使いわけたテクニシャンのキスだった。

って、違う。

なんでこんなに好き放題されているの?

『…いい加減にしてー!』

私はサクヤさんを突き飛ばし、2人から離れた。

『さっきからなんなの?わたしの気持ちを無視して好き勝手やって!』

ここで泣いてはいけない。

変態を興奮させてしまう。

私は握り拳に力を入れ、自分を保った。

『…。』

『…。』

2人とも黙ったまま何も言わない。

『とにかくわたしは教室に戻ります。今後、2人共と関わるつもりなんかないから!』

大きな声で言い放った私は教室へ向かって歩き出した。

背後からサクヤさんの声が聞こえた。

『ごめんヤヨイちゃん!ほんとにごめん!けどさオレ。マジだから。本気だから!』

私は振り向かなかった。

シュンの声も聞こえた。

『わるかった。自分を抑えられなかった。それくらい、お前は魅力的だ。』

振り向かなかった。

何も言わず、前だけを向いて歩き続けた。