なんて思っていたのに。

残念なことに、今朝見かけた男の子とは同じクラスだった。

前振りみたいなことを頭の中で言うんじゃなかった…。

私は自分の席に着き、頭を抱えて、激しく後悔した。

教壇の反対側を見ると、男の子は窓際の一番後ろという特等席に座って、外を眺めていた。

行動も風貌も目立つ人間が現れた為、教室内の至る所で『何あいつ。』『ヤバいわ。』といった感じのヒソヒソ話が始まった。

その様な空気を察したのか、それとも何か別の理由なのか、男の子は立ち上がり、教室を出て行ってしまった。

ヒソヒソ話の対象がその場を離れた為、教室内にいる大体の人は、普通のトーンで彼の話を始めた。

高校生活初日は、一言を発するだけでも緊張する。

そんな状況の中で、クラスメイト達に話題を提供した男の子には、感謝をするべきかもしれない。

今、私の隣の席の辺りで集まっている名前も知らない女の子達も、あの人絶対やばいよね?、なんて話している。

私もそうだねって同意した。

本当にそう思うから。

ふと、男の子が座っていた机の方を見ると、イスの下に何か物が落ちていた。

正直なところ、高校生活を平和に過ごしたいから、クラスメイトとは言え、極力関わりたくはない。

だけど、落とし物を発見してしまった以上、反射的に届けてあげたいと思ってしまう。

私はクラスメイト達にバレないように、落とし物を拾いに行った。

落とし物はキーホルダーがついた鍵だった。

男の子が戻ってきたらさっさと渡してしまおう。