『どーゆーコトなんだよ!?なぁ、スズキさん!聞いてた話と全く違うじゃねーか!』

『ごめんよ、サクヤくん。僕も食い下がったんだけど、どうしようもなくて…。』

合宿の開催が決定して、1週間が過ぎたある日の放課後。

当然、部活動は休みではなくて。

いつもと同じように部室に入ろうとした瞬間、サクヤさんの怒号が、狭い部屋に響き渡っていた。

用務員のスズキさんの申し訳なさそうな声も聞こえる。

感情的なサクヤさんを初めて見た。

だから驚いた。

同時に何とかしなきゃ、と思った。

そのまま勢いよく部室に入ろうと、扉に手をかけた瞬間、右手首の辺りを強く握られた。

慌てて右側を見ると、シュンがいた。

そして、私の視線の先にはノゾミ先輩もいた。

腕を組んだ状態で、壁にもたれ掛かっている。

2人とも、私よりも先に部室の前に居たようだ。

ってことは…?

シュンは部室に入ろうとした私を止めたってこと?

『…離して!』

私は小声でシュンに言った。

そう言われたシュンは驚いた様子だ。

『…正気か?』

『はぁ?意味わかんない!早く中に入らないと!放っておけないよ!』

『あぁ。そうことか。ちっ…。』

そう言ってシュンは舌打ちをした。

そして、右手首を解放してくれた。

すると突然、私の体が宙を舞った。

今度は腰の辺りを掴み、私のことを担ぎ上げたようだ。

お腹の辺りにシュンの肩が来ている。

いや、どういうこと?

『ちょっと!何してんの?正気じゃないのはそっちじゃん!人のこと、米俵みたいに持たないでよ!』

足をじたばたして、シュンのお腹を蹴った。

それでも、私の叫びなんか一切聞こえていないのか。

シュンは私のことを担いだまま、ノゾミ先輩の方に向かって移動した。

『…部活どころじゃなさそうッスね。』

『そうだね。』

『俺らは早退するんで。コイツも連れて帰るから。部長にそう言っといて貰えると。』

『分かった。ありがと、シュンくん。』

ノゾミ先輩は何故かお礼を言った。

こんなにも頭がおかしい奴に対して。

そしてシュンは私を担いだまま、本当に校門の方に向かって歩き始めた。

『ねぇ!ほんと意味わかんない!何がしたいの?ねぇ!離して!』

騒ぎながら、シュンの背中を何度も叩いた。

続けて足もじたばたした。

どれだけ言っても、叩いても、シュンは私のことは無視をして歩き続けた。

もうダメだ、そう思って私は黙った。

それにしても…。

学校の天井に体がくっつきそうなくらい、高い位置にいる。

高所恐怖症じゃないけど、さすがに怖い。

不幸中の幸いだったのは、制服のスカートじゃなくて、作業用のズボンを履いていたことだけだった。

『約束とちげーじゃねーかよ!どうなってんだよ!くそっ…。』

『ごめんよ…。サクヤくん、ごめん。』

部室から離れていく中で、サクヤさんの悲しそうな声が聞こえてきた。