『こんにちはー。』

授業が終わって、放課後。

更衣室で制服から動きやすい服装に着替えた。

着替えを終えてから部室に入ると、相変わらずの熱烈な大歓迎が私を待っていた。

『まってたよ!早速なんだけど、この玉ねぎをこの場でカットしてもらっていい?春の玉ねぎは旬なんだよな!』

『イヤです!騙されませんよ?でも、玉ねぎは貰います。ありがとうございます。』

サクヤさんが、玉ねぎがぎっしりと詰まったビニール袋を渡して来た。

受け取りをしたけど、中身は取り出さなかった。

いつも何とかして私のことを泣かせようとしてくる。

今日は玉ねぎカットで泣かせる作戦だったようだ。

この間はホラー映画を見せようとしてきた。

悲しいけど、この癖は1年経っても治っていない。

『そっか、残念。じゃあ今後のデートについての相談なんだけど…。』

『デートなんかしません!何回も言ってるのに!』

抱きついてきそうな勢いで近づいて来たサクヤさんをかわして、机に上に鞄を置いた後、イスに座った。

付き合いはしなかったけど、園芸部には入った。

あまりにも熱烈な勧誘が連日行われたから、最終的には折れてしまい、入部した。

作業は大変だけど、入部したことに後悔はなかった。

意外なんだけどね。

『おい。ヤヨイは俺とデートをすんだ。こんなヤツは無視でいい。』

『いや…。だからしないって!』

訳の分からないことを言いながら、シュンが部室に入ってきた。

もうひとつ意外なことがあって、シュンも園芸部に入った。

私を追いかけてってことらしいけど、そんな理由で園芸部に入るなんて思わなかった。

花壇に場違いのイケメンヤンキーがいる、ということで、学園内では有名になってしまった。

花たちも、まさかそんな目立ち方をするなんて思ってないんだろうな…。

『いいのか、シュンくんよ。オレは部長。部長権限でいくらでもヤヨイちゃんと一緒に作業ができるんだ。ってことで、シュンくんの仕事はもうない。帰っていーよ?』

『ふざけるな。ヤヨイと2人きりにさせるわけないだろ?』

『いや…。人足りてないんだから…。部長が部員帰らせちゃ、ダメですよ…。』

悲しいことに、部員は私達込みで4人しかいない。

作業自体は用務員さんもやってくれるから、最終的には何とかはなる。

でも人数が少ないと、その分1人あたりの作業が増えてしまう。

それに、用務員さんには他の仕事もある訳だし。

部員が少ない原因は、主にこの2人のせいだった。

元々20人くらいはいたらしいんだけど、サクヤさんが女子部員のほぼ全員に手をつけてしまった。

貴重な男子部員達ともこじれてしまい、サクヤさんの代は2人だけになってしまった。

私達の代は…。

シュンの大バカ野郎が相手も選ばずガンを飛ばしまくるせいで、みんな辞めてしまった。

本人いわく、悪気は無いらしいけど…。

せっかくサクヤさんが勧誘(ナンパ?)を頑張ったのに、無駄になってしまった。

『アンタらうるさいよー?部室の外まで丸聞こえ。』

『あっ!ノゾミ先輩!よかったぁ。遅いですよー!またサクヤさんが訳分かんないことばっか言ってて!』

『それはいつものことでしょ?』

『ノゾミちゃんひでーよ…。オレはマジなだけだってのに…。』

最後の部員、ノゾミ先輩も部室に入ってきた。

サクヤさんと同じ代の先輩で、サクヤさんの暴走を止めてくれる貴重な存在だ。

シュンだと、暴走に暴走が加わるだけなので。

中身も外見もクールなこの先輩だけが、部内で唯一のマトモな人だった。

『そんなことよりさ。今日の作業はどうするの?早く割り振りして?』

そう言ってノゾミ先輩がサクヤさんの横にあるイスに座った。

ちなみに部室と言っても、物置き部屋のような印象が強い。

植物はひとつも置いていないけど、スコップなど作業で使う道具各種や肥料などを置いている。

一応、部屋の真ん中に大きな机があるおかげで多少の部室感はあるんだけど。

そもそも、部室感っていうのが何なのかは分からないね…。

長方形の机があって、片側ともう片側に2つずつイスが横並びで置いてある。