何事もなく、最初のホームルームは終了した。

今日はもう授業が無いので、帰るだけだ。

残念なことに、自己紹介の時は教室にいなかったせいで、誰が誰だか分からない。

知り合ったばかりの友達とおしゃべりタイムができない。

仕方がないので、友達作りは明日から頑張ろうと思う。

もう帰ろうと、鞄を持って立ち上がった瞬間だった。

『今からかえんの?』

突然、サクヤさんが教室に入ってきて、話しかけてきた。

私の席の前に立ち、優しく微笑んでいる。

普通にしてれば顔は良いよね、この人。

突如現れたイケメンの先輩に話しかけられたことで、私は注目されてしまった。

この注目のされ方はよくない。

このパターンは場合によって、イケメンと絡むなんてアイツ生意気とか言って、同性達から意地悪をされてしまう可能性がある。

クラスガチャがアタリなら、心優しい人しかいないので、そんなことは起こらない。

現状、アタリかハズレかは分からない。

至急、教室を出た方が良さそうだ。

『お疲れ様ですー。さよなら。』

『まってまって!これ、持って行って!』

すぐにこの場を離れようとした私に、サクヤさんは市販のビスケットを渡してくれた。

相手は何をしてくるか分からない。

受け取りながらも、慎重に尋ねた。

『…これで許してもらおうって作戦ですか?』

『ちげーよ!お腹空いてないかなって!用件は別。ヤヨイちゃんさ。ガーデニングとか興味無い?』

どうやら部活の勧誘のようだった。

確かにこの時期は、部活動の勧誘が盛んになるけど、直接やって来るなんて。

ビスケットは賄賂だ。

『花はかわいいなって思いますけど、育てるってところまでは興味無いですね。』

つい真面目に答えてしまった。

さっきのことを許した訳ではないのに。

花は確かに好きだけど、何かを育てるってかなり大変な作業だ。

私には向かないかなと思う。

『花が好きなら問題ない!一緒に花、育てよーよ?花だけじゃなくて、野菜も育ててるし!絶対楽しいから!』

そういえば部活動をどうするか、全く考えていなかった。

どうしようかな。

野球部のマネージャーをやって、甲子園に連れてって♡って言いたいし。

サッカー部のマネージャーをやって、私の為にハットトリック♡も言いたいし。

もしくは…って挙げたらキリがない。

とりあえず、先輩の誘いは断る。

『考えておきます。さよなら。』

『即答かよ!やらないパターンのやつ!でも、部活動の選択肢に入れてもらえると嬉しいけどな。だってさ…。』

『なんですか?』

『ほんとはオレ、ヤヨイちゃんといたいだけだもん。好きな人と好きなコトできたらなって。そんだけ。』

はい、来ました。

イケメンのマジトーン。

それはズルい。

しかもクラスメイト達の前で言わないでよ。

恥ずかしくないの?

クラスメイト達の視線を感じた。

さらに、全身が熱くなるのも感じた。

そのことが悔しかった。

『とっ、ととっ、とりあえず!きょっ、今日は帰ります!』

『うん。また明日!』

私は駆け足で教室を出た。