「あっ!虹 緋彩だ!
今月も雑誌の表紙じゃん。」
ちらっ。
本屋の女の子雑誌の前をうろちょろうろちょろ……
必ず誰かが、緋彩の噂話をしている。
虹 緋彩………(ニジ ヒイロ)人気雑誌ageneの表紙を飾る彼女は。。
「なんかこないだ、学校待ち伏せして会いに行ったんだけど、めちゃくちゃ優しかった!
だけどなんか、小さい男の子と並んで歩いてたよ」
「あ、たぶん弟じゃない?
すんごい小さかったし、あれが彼氏なら釣り合わないよねー」
ムッ。
ギャル達め……そうだよ。
俺はどうせ小さいし、顔は女顔だし、緋彩には似合わないーー。
自分が1番よく分かってる。
だからって、他人にそんなこといちいち言われたくないが、本音。
だけど…………
ギャル達の背中を見つめた。
あの子達は、緋彩を手本に雑誌を買って
緋彩みたいになりたくて
"目標"持ってるんだよな、って思ったら……
俺なんかより、凄いって思った……
緋彩は、自分より身長が高くて頭から足元まで常に綺麗にしている。
元々小さな時から整っていた顔立ちは、日本女性より、遥かに超えて群を抜いていたーー。
色素の薄い栗色の髪は、地毛なのに綺麗で艶があり、生まれつきのくせ毛は
クルクルの程よい巻き髪。
ぱっちり目に、ぷっくりとした唇。
緋彩は、モデルになるのが当たり前なぐらい
備わっていたんだ。
初めからーーこうなるって分かっていた。
14歳の時、街中で声をかけられ
初めは怪しんでいたが、怪しい仕事ではなく
純粋なモデル事務所だったことから……
「ひな!!
私、モデルやって見るね!!」
14歳の夏………:
君がモデルになるのを決意したあの日。
俺だけの緋彩が
みんなの緋彩になってしまった……。
あの日………
「頑張れ、緋彩」
励まして見送ってしまったことを後悔した。
だって…………
今まで一般人だった緋彩の隣を歩く俺に
もう"違和感"しか、感じないから………。
小さい男の子………
可愛い男の子………
弟?
雨空 ひな
名前だけなら、女の子。
病院の待合室、名前呼ばれると振り向くのは、男子ばかり。
「雨空ひなちゃん」
男子だと言うのに、女の子に間違われる危篤な名前。
性別は男になってるのに
いつだって俺は……
男に見られた事は無い……。
女子の制服を来たら、間違いなく女の子に間違われる。
釣り合いの取れる男になりたいーー。
メンズ雑誌片手に、表紙に載ってる名前も知らないモデルに、憧れを抱いた。
色白なのに、男らしい…………
"海藤 ヒカル"ーー。
男の中の男って感じーー。
表紙に メンズ雑誌 人気ナンバーワン 海藤ヒカル と書いてある。
人気ナンバーワンね。。
雑誌を見ながら、こんな人と緋彩が並んだらお似合いなんだろうな、と思いたくないけど
思ってしまった………。
緋彩が、海藤ヒカルの隣に並ぶーー。
絶対、あのカップル見たいにお似合いなんだろうな。
カフェで、ドリンク待ちの若いカップルがいた。
2人共、美男美女で……
視線を集めるその先には、、は?
「あれ?
ひなだ!珍しいね、カフェ巡り?」
知ってる声。
知らない訳がない………。
噂の2人。
雑誌の中の2人。
雑誌から飛び出して来たのでは無いか、と思うぐらいの2人は…………。
手を繋いでいたーー。
某有名カフェで、ドリンクを待っていた2人は知ってる人達でーー。
女の子の方は、虹 緋彩。
俺が昔から知ってる幼なじみ。
違和感を感じたーー。
緋彩の指に海藤の指が絡まっていた。
なんでーー?
緋彩に彼氏とか、聞いたこと無いけど。
「緋彩」
ーー!!
緋彩を呼び捨てにする、海藤ヒカル。
雑誌で知ったばかりの、知識しかないけど
人気モデルなんでしょ。
こんなとこで、人気モデル同士が手を繋いでいたら騒ぎになるじゃん。
彼氏、彼女とかあることないこと雑誌に書かれて、緋彩に泣きつかれるじゃん。
「緋彩、この子……弟?女の子みたいだな。可愛いね」
初対面からめちゃくちゃ失礼ーー。
格好は男子制服の俺。
顔だけなら、きっと、女の子だったはず。
辛うじて、男子には見えたであろう。
だけど、海藤ヒカルは口元を隠してニヤついていた。
嫌に、突き刺さる視線。
男子とか、ありえないーーって言う視線だ。
「いやいや、幼なじみの雨空 ひなくんだよ」
ーー!!
緋彩はわざわざフルネームで教えるからーー目を見開いて海藤は、びっくりしている表情をした。
「ひな?」
ほら、笑ってる。
女の子みたいな、名前の俺。
「ヒカル、ドリンク来たよ。
他のお客さんの邪魔になるし、席行こうよ。
良かったら買い物終えたら、ひなもおいでよ」
緋彩の気遣いが今は痛い。
構わないで欲しかったーー。
「買い物?あ、それ俺が表紙の奴じゃん。
買ってくれるの?」
急にキラキラした瞳をし始めた海藤。
カフェと本屋は繋がっていてーー俺は、海藤が載ってる雑誌を返すことも出来ないまま、カフェまで来てしまった。
ありえないものを見てしまったからーー。
「あー、買ってくるわ」
急いで逃げるようにレジに向かう最中。
「あ、ひな!!
ありがとうっ」
満面の笑みの緋彩に、何故か感謝された。
だけど、直ぐに分かった。
俺の腕の中の雑誌。
表紙は、海藤ヒカルーー。
自分の事のように嬉しく笑う緋彩を見て思った。
緋彩と海藤ヒカルは
恋人同士なのだと……………。
袋の中の雑誌ーー。
買いたく無かった。
憧れから、今は憎らしくて堪らない。
カフェで、ドリンクとデザートを堪能している2人に、本当は近づきたく無かった。
人気モデルの2人。
その間の一般人。
キラキラ度の違い。
周りの好奇な視線……。
ザワつく店内。
「あれって?」
「やっぱりだ!2人でいるとか、お似合い!」
カフェのざわめきは、次第に大きくなりーー。
俺は溶けかけのフラペチーノ片手に、呆然と立ち尽くしていた。
「ひな!
こっちだよ!」
緋彩。
賑やかな、店内を更に彩るのは辞めて。
普段、注目される事が無かった俺はーーカチコチの手足。
小学校の卒業式。
手足を同時に出す同級生が、必ず1人はクラスに居たっけな。
思い返していたーー。
今の俺は、それに似た感覚を覚え、今まさに直面していた。
「緋彩、その人は緋彩のーーー「好きな人だよ」
ーー!?
まだ
心の準備が出来ていなかった俺はーー
言葉に詰まった。
分かってたけど知りたく無かった。
分かってたけど嫌だ。
緋彩に好きな人?
小さな時からずっと隣にいた緋彩。
いつも、チョロチョロ後を追う俺は、男にしては情けなかったよ。
だけどさ。
気にならない訳は無かったよーー。
緋彩の方が身長が、高くてーー。
まあ成長期だし、いつか緋彩の身長を軽く超えるって信じていたからーーー。
だけど、成長期とかいつだし。
ちっとも成長しない身長。
そればかりか、緋彩は確か170センチ。
女の子にしては、大きな方。
緋彩は、周りの男子と比較して、身長が高いのをコンプレックスに思っていた。
だから、俺は大きくなりたかったのにーーー。
「海藤くんは、緋彩のこと真剣に好きですか?」
海藤ヒカル。
見た目、プレイボーイの彼はーー偏見だけど遊んでそう。
何しろ、人気モデルだよ?
緋彩1人な訳無いよなーー、本当に偏見だけど。
「真剣だよ。
緋彩とは、雑誌の撮影で知り合ったんだけど。緋彩の将来も、考えて付き合ってるから。
チャラく見えるかもだけど、緋彩に真剣に向き合ってるから」
俺の目を見て話す海藤の瞳は、嘘偽りなく、歪んでもいなかった。
偏見でものを見る俺よか、彼の方がよっぽどまともな青年だった。
悔しいーー。
腕に抱く雑誌に少し力を入れたらーー。
茶色の紙袋が、クシャ、と音を出した。
こんなに真剣に見つめられたら、何も言えない。
雑誌の中の彼は今目の前にいて、俺に許しを乞う。
俺は、緋彩の父親になった気分にさえなる。
「ひなくん、黙っててごめんね。
びっくりしたよね」
ーーー。
びっくりなんてものじゃないよ。
心臓止まるかと思ったーー。