「飲み込み悪いね、俺達…
一緒に住むんだよ」
海藤の軽い悪態なんか、気にかけてられない。
頭ん中が、ごちゃごちゃだ。
緋彩を見たら、緋彩は赤面して手をモジモジしていた。
堂々としていて、普段大人びていた緋彩を
ここまで可愛く出来る海藤に
少し……ほんの少しだけ妬いた。
「緋彩……ほんとに?」
海藤の口から出た言葉なんか、
信じられないーー。
欲しいのは………
緋彩の"違うよ"って言葉だけだ。
緋彩は、小さな時からずっと一緒にいた
幼なじみ。。
緋彩の知らないことなんか、1度も無かった。
だけどそれは、中学までの話。
中学を過ぎた辺りから、どんどん可愛くなる緋彩。
追いつけなくなるぐらい………遠くなった。
誰かに必ず1日は
告白されて…だけど何故か彼氏を作らない。
男嫌いまで、噂されていたのにーー。
横に無条件で居られる自分は"特別な人間"だと
勝手に解釈していた。
「ーー本当だよ、ひな。
私ヒカルと一緒に住むの」
冷たいフラペチーノのクリームが
放置していた為に、消えていた。
ほとんど口を付けてないフラペチーノ。
シャリシャリした冷たい氷。
口の中がカラカラで
付いた様に繰り出す咳。
声が………いや、呼吸がおかしい。
俺は膝を付いていた。
立ち上がる気力もないーー。
冷たい床に、沈んでそのまま消えて無くなりたいさえ、思った……。
「ーー!!ひな「触んな!!緋彩なんか、好きにならなければ良かった」
自分を心配して駆け寄って来た緋彩にーー。
「ーー好きにって………ひなが私を?」
あーー、それすら気づいて無かったんかよって落胆した。
だけど、それは自分が悪い。
だって一言も…………
「緋彩なんか、ずっと好きでバカみたいだ、俺はーー!!」
緋彩なんかーーー!!
1度も
緋彩に
"好き"なんてーーーー!!
言わなかったんだよ、俺は。
走ったーー。
フラフラだし、呼吸だって苦しい。
だけど、もう後戻り出来ない。
自分の気持ちを1度も伝えず、
緋彩にひどいことを言った。
緋彩にー。
緋彩なんかにーー!!
なんであんなひどいことーー。
店を飛び出して、ずっと握ったままのフラペチーノは、半分ぐらい溶けかけ
少しぬるめの温度になっていた。
走って来たことで、喉が、乾きーー。
水分補給。
水分補給なんてモノじゃないぐらい。
全て飲み干した。
甘いキャラメルとクリームのフラペチーノ。
甘い味が口の中に広がる。
だけど時々、しょっぱい。
気づいた時ーー涙だと知った。
「緋彩…………」
緋彩の名前を何回も呼んだ。
周りには、誰も居ない。
誰も居ないことをいい事に
俺は、思う存分泣いたーー。
明るかった夕焼け空も
今は真っ暗闇。
バカ見たいに暗い。
「あれ?
もしかして、ひな?」
ビクッ!!
突然背後から自分を呼ぶ声に、一瞬だけ肩が上がる俺。
誰もいなかったはずの芝生。
誰もいなかったはずの公園。
近所の古びた遊具があるーー。
もう錆び付いた遊具に、
危険⚠だから、と遊ばなくなった廃公園。
夜に、こんな錆び付いた遊具のベンチに丸くなり、膝を抱えた俺なんかに
話かけるやつなんか居ないだろうーーってタカをくくっていた俺は
後ろから聞こえた声に、焦った。
懐中電灯の灯りが
確かに俺を映していた。
ワン!!
ワン?
「あ、つばさ」
クラスメイトになったばかりで
1番仲が良い椎名 つばさだった。
泣いてるとこを、クラスメイトに見られた。
しかも、犬の散歩らしい。
こんな古びた廃公園なんか
散歩しに来るなよって心の中で悪態をついた。
「いやー、うちのマロンちゃんが夜道の散歩は誰もいない廃公園がいいって言うからさ」
ーーーーーーー。
マロンちゃん?
このブルドッグが、マロンちゃん?
別に犬好きに、ブルドッグ可愛いか?なんて言わないけど、犬は見た目じゃないし、飼い主からしたらきっと癒しに違いない。
だけど、絶対ぜったいに
廃公園に行きたいなんて行ってないだろう。
散歩途中に俺を見つけて、来てくれたに違いない。
「つばさ、俺を一言で言えばなに?」
俺の言葉に、つばさは赤面し見つめる。
まじ、やめろよ、その顔。
嫌な予感しかしないーー。
「ひな、可愛いよ」
パコーン!!
持っていた雑誌で、つばさを殴った。
これまたいい音が鳴った。
つばさの頭ん中がよーくわかったよ。
「いてーな、仕方ないだろうが!
そこら辺の女子よりお前のが可愛いし。
クラスの奴らがどんだけお前のことを。。「わかったから」
げんなりする。
仲良しクラスメイトなはずだったのに
みんな、俺のことそんな目で見てた真実に泣きたくなった。