「果穂!!」
部屋に飛び込み果穂を探す。

果穂は部屋の隅に置かれたソファの後ろに隠れ込み、必死で逃げようと抵抗していた。

男が果穂の手を掴んで、引き摺り出そうとしている。
果穂は着替え途中だったのか片手で胸元を抑え、片手を引っ張られて、 
俺の顔を見て安堵の表情を浮かべる。
目には涙を溜めて…

全速力で走り寄る。

「翔!手は出すな!!」

雅也の声で、飛び蹴りしたい気持ちを瞬時に抑え、果穂を捕らえるヤツの手を捻り上げる。

「痛っーー!!」
ヤツを床に押さえ込み、後ろ手に腕を締め上げる。
御曹司たる者、如何なる時も自分の身を自分で守るべきだと、家庭教師に言われ護身術を習わされた時期があったが、まさかここで役立つとは……。

雅也はドア側の内鍵を開け、廊下にいた者が中になだれ込む。

新田は俺に駆け寄り、
 
「変わります。」
と、ヤツを代わりに押さえつける。
自分のネクタイを外し手際よく後ろ手に縛り付ける様子は只者では無い動きを見せた。

俺は素早く近くにあるベッドカバーを手繰り寄せ、ソファの後ろに隠れ縮こまる果穂の元に駆けつける。

カバーで果穂を包み優しく抱きしめる。
「大丈夫か?怪我は⁉︎」
目に涙を溜め震えながら、首を左右に振る。
「だ、い、じょうぶ……。」
はぁはぁと息が乱れ、顔に血の気が引いている。
過呼吸気味だと判断して、
「果穂、もう大丈夫だから。
ゆっくり息をして、5秒かぞるから息を吸って
1、2、3、…」
ゆっくり吸って吐いてを繰り返すと、
呼吸が落ち着いて来て安心したのか、
くたっと俺に寄りかかる。

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな。」
背中を撫でて抱き締める。
生きた心地がしなかったこの数分を取り戻すように、翔は大きく息を吐く。

「社長、どうしますかこの男……。」
新田の声で、冷静さを取り戻す。

周りを見渡すと、式場のスタッフが数人ワタワタと様子を伺っている。


「警察は待て、果穂の知り合いだ…。」
俺は果穂を抱き上げ、ソファに座らせて落ち着いた声で指示を出す。

「ドアを閉めて、関係者以外下がってくれ。支配人とプランナーを呼んで。」